その後と始まりと名付け⑤
「それはそうじゃの。お主だけでなく我も不便だからのぉ」
彼女は腕を組んで考え込む。だけど、しばらく経っても彼女はうーんとしか言葉にせず、そして、僕を見てため息をついた。
うん、地味に傷つく。
「はぁ、期待はせぬが我には思いつかないからお主が我の呼び名を考えよ。期待はしておらぬが」
うわ、期待して無いと二回言われた。しかも、声のトーンが下がってより心に傷つく。
いや、そもそも僕なんかが彼女の呼び名を考えるなんて無理だと言おうとした時に彼女が。
「そうそう、断ったり我に不似合いな名を言ったりしたら腕一本、十年は動かないと思っておれ」
そう言って、彼女の影の一部がぶんぶんと一部先を動かしていた。
怖い、本当に怖い。
素直に考えてた方が自分の身が守れる。
しかし、名前か。
女性らしい名前が良いだろうけど、なかなか彼女にふさわしい名前が浮かばない。それに、とりあえず何か名前を言葉にしても彼女が気に入られなければ、僕の腕一本が動かなくなってしまう。それだけなら、まだしも他にも何か言われそうだしされそうだ。あっ、想像するだけで怖い。背筋に寒気が襲う。肌に冷たさを感じる。
冷たさ?
ふと、顔を上げるとキラキラと季節外れの小さな雪が降っていた。
「雪?」
「雪じゃな」
太陽の光に当たり雪の結晶は反射する。
すぐに溶けて消えてしまう。それでも降る雪を彼女は綺麗な目で優しい顔で見ていた。
そんな雪を僕はまるで彼女を守るように隠すように降っているように見えた。
そして、彼女の姿も心もいつの頃からか花のようだと思っていた。
ころころと変わる彼女の印象。
僕を痛めつける時、血を吸われた時、影を使って人を攻撃する時、人の生命力を奪う時。
彼女はとても美しく妖艶に見えるがとても恐ろしく残酷で怖い。
黒い、黒い花のように。クロユリのように。
僕を認めてくれた時、食べ物を食べる時、影を自慢する時、自分を信じている時。
彼女はとても優美で誇り高く見えるがとても可愛らしく純粋で優しい。
白い、白い花のように。白いユリのように。
彼女は本当はどんなものか近くで見ないと分からない。
花の正体を雪が隠し、それが黒いユリなのか。白いユリなのか分からない。
もっと知って、近くに行って、雪を払わないとどんな色か分からないユリ。
そのユリはどんな色でも美しく咲き誇るだろう。
それが、彼女だと僕は思う。
「こんなのはどうでしょうか?」
「何じゃ」
と彼女は僕に目を向ける。
少し、気恥ずかしさを感じるが音に、言葉にしよう。
「雪の中に咲く花、ユキユリ」
それを聞くと彼女は嬉しそうにどこか安堵したかのように笑った。
彼女の名前は「ユキユリ」になりました。