スキル保持者
「とりあえず、指を折らないでおいてやるからさっさと話すがよい」
彼女はジャンさんの指を放したがジャンさんは泣きそうに自分の折られそうになった指をさすった。あと、もう少しで折れる所だったな。あれは。
「痛いけど、進めないとまたやられそうだから話するけど」
空気が変わった。
「初めて彼女の事を見た時、自分は死ぬのかなと思ったんだよ。だって、情報が全く見えなかったからね。名前も職業も性別さえ全く見えなかった。情報が無いんだよ」
彼女の事はスキルを持ってしても分からないのか。
「死ぬのかなと思ったけど、窓越しの人の情報やポチの情報はバッチリ見えたからその子に何かあるのか踏んで、近づいたら。まさかのあれで」
最初に会った時のあれか。でも、あ~あれはジャンさんが悪いと思う。それに、当の本人は何食わぬ顔だし。
「ちょっとおかしいなと思ってたんだけど。最後の決め手としては化け物が倒れた瞬間、サクヤの光の輪に触れた時かな」
ジャンさんはため息をついた。
「あの時、少しの間だけど、俺は安全で遠い所からサクヤを見てたんだよ。そして、見えた光の輪を出した時、サクヤがスキル保持者とそして、〈自分忘れの隠者〉って言う称号が見えたんだよ。まぁ、すぐに俺も光の輪に当たって、スキルが発動しなくなったんだけどね。んで、さっき落ち合った時にはサクヤの情報がいつも通りになっていたわけだ」
称号、それはスキルをある一定の強さになったら、獲得できる称号。ただ、スキルを高める事はただ多く使うだけでなく、いろんな条件がありそれを達成しなければならない。ゆえに、ありふれたスキルを一つ極めたとしても手に入るとは限らない。ギルドの人でさえ、称号を持っている人はいない。称号を持っているとしたら、それこそ聖人や君主、賢者辺りだ。
だから、スキルがさっき初めて使った僕が称号とは最も縁遠い。それなのに、ありえない。そもそも、僕はそんなの知らない。身に覚えない。
僕の顔を見たジャンさんはやっぱりかと呟いた。
「その顔はサクヤも知らなかったようだな。あー、これから話す事は俺の推測だけどいいか?」
僕は何も言わずに頷いた。
「サクヤは元々スキル保持者でそのスキルが〈隠す〉と〈消す〉で、言葉の通り、隠すと消す効果があるんだと思う。それだったら、その称号の名前にもうなずけるし光の輪に当たって消えた俺のスキルの事も考えられる」
確かに、あの時、頭の中に流れた言葉に(隠者)、(隠す・隠れる)意味がある。それに、スキルが暴走したあの化け物の体は、心はスキルの化身のような物だ。そのスキルが動力源そのものだったもののスキルの効果を性能を消す事は動かなくさせるのと同義だ。それだったら、〈消す〉スキルの効果は分かるが〈隠す〉は? 一体何だ?
その答えをすぐにジャンさんが教えてくれた。
「〈隠す〉は自分の事を他から守る。情報を与えない。見せない。知らせないスキル。それこそ、俺のスキルやどんなスキルでさえ見せないように。隠すスキル」
ジャンさんの瞳が真っすぐ僕を見る。
「自身にスキルが無いと思わせる最初の最初から発動していたスキル。そう、それこそ、いつからかは俺は知らないがその本人にさえも分からないほどにずっと前から。他もスキル保持者自身さえからも隠れていたスキル。欺いていたスキル」
背筋に冷たいものが流れる。
「それをサクヤは持っている」