涙が出る
「えぇ~~~」
とりあえず、今出せる言葉はそれだった。
いや、目の前に悪魔のような少女に僕の命を助ける代わりに一生少女の下僕と少女の痛みを代わりに受けなければならないと言われ、その上、腕輪が僕を殺すと笑顔で脅されたら、恐怖も混乱も悲しみも助けてくれた喜びも混ざって、複雑な気持ちしか生まれない。なんか、僕の負担が大きい。そんな事をいろいろ言いたいが、まずは出たその言葉はそれだよ。
「なんじゃ、その嫌そうな声は何か文句があるのなら言ってみよ」
「いや、何でもないです。助けてくださりありがとうございました」
彼女は僕の腕を離し、今にも本音を言うのなら腹に一発与えようとしていたので首を全力で振った。そして、感謝を言葉にする。
もう、今日の痛みのキャパシティは越えた。これ以上はくらいたくない。
「お主はもっと我に感謝するがよい。我はお主の命を救うだけでなくお主の望みも叶えるのだからな」
彼女の言葉に僕は死ぬ前の一瞬の望みが頭に浮かんだ。
僕はあの時願った。確かに望んだ。口にした。彼女に伝えた。
「お主の大切な何かを守って死にたい。その願いを我が叶えよう。我が吸血鬼としての誇りにかけて」
夜の深い色を裂いて、太陽の光が朝の訪れを呼ぶ。
彼女はうやうやしく自分の裾を掴んでお辞儀をした。
光を背に立つ彼女の髪が黒とも白とも呼べない灰色に染まり、瞳の色が紅から青に変わる間の色を映す。
その時の彼女の姿は僕は生涯忘れないだろう。
どっちの色にも染まらない彼女を。
「我がお主の大切なものになってやろう。お主が心の底から大切だと言える存在に我はなろう。お主が我を守って死ねるように」
彼女はもう一度満面の笑みで言った。
それはあまりにも自分勝手で彼女本位で僕の事を全然考えていなかった。
でも、なぜか、分かんないけど。
僕は嬉しかった。
涙が出て来た。
そんな僕に彼女はさらに笑みを深めた。
ああ、この涙が止まったら彼女に告げよう。
この言葉を。
「僕はあなたの下僕です」