どうして生きている
「おい、いつまで寝ておる。そろそろ起きろ」
その言葉と同時に脇腹に痛みが走った。
「いったぁ!」
目を開けると彼女が不機嫌そうな顔をしていた。
「起こしてやったのだから、我に感謝するがいい」
と彼女は言うが絶対、眠気覚ましに脇腹を蹴った。眠っている人を起こす方法ではない。鬼だ。
「えっ、待って。何で僕は生きてる?」
だって、僕は死を受け入れた。
死んだのだから。
なのに僕は今、呼吸をしている。
指先が、腕が、足が動く。動いている。自分の意思で動かせる。
考えられる。思考ができる。不自由なく。
苦しくない。脇腹は痛いがそれ以外は痛みが無い。
彼女の姿をはっきりと見える。映し出している。
血と土、木の匂いがする。においがある世界に僕はいる。
口の中が血の味がする。さっきまではしなかったのに。
彼女の声がはっきりと聞こえた。遠くで鳥の鳴き声も聞こえた。
全て、生者が、生きる人が感じる感覚、行動、生きるために当たり前のものだ。
それを僕はしてる。感じてる。行動している。当たり前にしている。
どうして?どうして?どうして?どウしテ?ドうシて?ドウシテ?ドウシテ?
ボクハイキテイル?
ここは死の世界なのか?いや、それは無い。あまりにも世界が目の前の光景が死ぬ直前のと変わっている所が無さすぎる。
それに、目の前に彼女がいる。彼女は生者だ。その彼女が目の前にいる。同じ世界にいる。
僕は幽霊になったのか?いや、胸に手をおけば鼓動が、心臓が動いているのを感じる。手も足も半透明になっていない。
ダッタラ、ドウシテボクハココニイル?イキテイル?シヲウケイレタノニイキテイル?ワカラナイ。ダケド、モシカシタラ、ボクハイキテイテイイノカ?
「お主のその混乱と不安に満ち溢れた顔はなかなかいいが、そろそろ止めて、我を見ろ」
僕はうつむいていた顔を上げるとすぐ近くに彼女の可愛らしい顔が、笑みがあった。
「お主はもう我の下僕なのだから」