美しき血を吸う者
少女の紅い瞳が僕を捉えた。
彼女はガラス越しに僕に笑みを向けた。美しい笑みだったが、全く優しさが無い。
それには、ただ、僕に彼女が人間でない事と絶大な恐怖を感じさせた。
僕はガラスの棺から、急いで離れた。
彼女は自分を覆うガラスの棺の上面のガラスに触れた。
そして、
ピシっ、ピシっ、パリーンと
彼女を覆っていたガラスが割れた。
ガラスのかけらは大きく飛び散り、僕の頬を切り、暖かい血が流れた。
「ふぁぁ、良く寝たのう」
想像した通り、透き通っていて鈴のような声で彼女は呟き、背筋を伸ばし、地面に足を下ろし立った。
その、一通りの行動には優雅さが感じられ、体は彼女は人間でない逃げろと訴えているのに眼を離すことはできなかった。
それがいけなかったのだろうか。
次の瞬間、彼女は僕の前に立っていた。僕は急いで腰にある短剣を抜こうと手を伸ばしたが掴めなかった。持てなかった。
だって、彼女の足元から、黒いもの、たぶん、影が僕の手を抑えたから。
「ふむ、起き抜けに良いものを見つけたぞ。我は運がいいな」
そう言って、彼女は僕の首筋に頭を置いた。
ああ、なんかすごくいい匂いがするんだけど。僕は彼女の頭がある反対側に顔を向けた。なんか、恥ずかしい。
だけど、その思考はすぐに消えた。
ガリっ
と彼女の頭がある首の方に痛みが走り、熱いものが流れては吸われて消えていく。
熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い‼
燃えるように熱く。
体が燃えているようだ。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い‼
体が削れるように痛い。
首筋に剣を突き刺されてようだ。
僕の血が今、逆流している感覚で逆流している血はどこかに向かって、消えていく。
こんな、痛み僕は知らない。
意識を失う。
僕は最後の力を振り絞って、痛みの原因である少女の方に顔を向けると。
僕の首にかみつき、血を吸っていた。
「はぁ、うまい。はぁ、もっと、もっと、我に」
そう呟くと彼女はさらに強く、かみつき、多くの血を吸った。
その表情は顔を苦痛でゆがませる僕と反対にさっきとは違う笑み、頬ピンクに染めて優艶に笑った。
その笑みを見て、僕は死ぬほどつらいのに美しいと思った。
そして、僕は意識を手放した。