棺の中の彼女
扉の中に進み、トンネルを出るとそこは広い室内で幻想的な場所だった。
「はぁ、すごい」
その単語しか出ない。僕の語彙力が足りないのではなく、本当に美しく言葉が出ない。
部屋の床一面に淡く光咲く花々、天井には月の形の窓から月光がこぼれ、窓の隣には紅い宝石たちが月を作り、光を生んでいる。その二つの光が重なる場所にガラスの箱がある。
僕はそのガラスに近づくため、一歩足を踏み入れた。
一歩、一歩進んでいった。
近づくにつれ、箱が棺だと分かって、その箱に誰かが入っていること。その人がの少女だと気が付いた。
棺の中の少女はこの場所に負けないくらい美しかった。
彼女は僕と同い年か年下のようで、雪のように白い肌、目を閉じてるまつげは長く、口は優し気に笑っている。
肩まで伸びる銀髪は少女の整った可愛らしい顔を美しく見せている。
静かに横になる彼女は今にも起きて、美しい声で話しかけそうだ。
だけど、どこか僕は異様だと感じた。
こっちの世界でも火葬や土葬等があるが、死んだ人を置いたままにすることはない。彼女は棺に入ったまま、ここに置かれていた。
彼女の服装は純白フリルのワンピースを着て、黒いマントを羽織って眠る姿はどうにも元居た世界でもこの世界でも見かけない。死に装束に見えない。
そして、この棺が置かれていた時間と彼女の死んでからの時間だ。棺の箱の角は植物のツタが絡まっていて、枯れているツタもある。ここ数日で伸びて絡まったとかは考えられなく、半年以上はかかりそうだ。半年もかかっていたら、死体は痛み、腐り異臭がするのに。彼女の死体には腐っているどころか痛んでもなく、美しかった。においも周りの甘い花の香りしかしない。この彼女の死体が最近、棺に入れたのなら、分かるがそれ以外はあり得ない。まして、ここまで来るのに花を踏まなくてはいけなく、足跡がついてしまう。しばらくは足跡が消えないだろう。その足跡は周りを見渡しても僕以外は無かった。
僕はガラスの棺に手を置いて、祈った。
「どうか、安らかに」
異様だったけど、僕は願った。
僕と同じぐらいの彼女が安らかに眠ることを。
その時、
ピシっ
と頭に痛みが走った。
「痛っ」
何かが体中を駆け回っている気がした。
心臓が早鐘を打っている。
心臓の音が大きくなる。
体が熱くなるのを感じた。
僕は落ち着つかせるように何度も深呼吸をした。
だんだんと、心臓の音は小さくなっていった。
体の熱が収まっていった。
僕は息を吐きだしたとき、
僕は
棺の中の彼女がゆっくり目を開けるのが見えた。
僕は彼女が
死んだのではなく
眠っていたのだと知った。