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恐怖は無いから
化け物はレンガの建物を壊し、人に安らぎを与える大きな木を赤黒い筋肉の繊維の腕が薙ぎ払い。意味をなさなくなったかけらをぶん投げる。それを複数ある腕が同時に行う。地面には見るも無残な噴水があり、花のアーチは地面に踏みにじられ、満開に咲き誇っていた花は花弁になって地に無残に殺されていた。
そんな惨状でも化け物は壊し、壊し、壊す。
目の映る物全てを、全てを、壊す。
止まらない衝撃と共に化け物は咆哮を上げた。
その瞳には理性も感情のかけらが見えなく。
ただただ、深淵の闇がその瞳を染めていた。
「ぐぎゃあああああああああああああああああ!!」
「近所迷惑ですよ。って言っても分からないでしょうが」
咆哮に答えるように言ったその声の方を化け物が向くと丁度、薬瓶を飲み込んだ咲夜がそこに立っていた。
人に恐怖を植え付ける芳香を聞いていても咲夜は立っていた。
毒など全く効いていないかのように。
痛みなど無いように。
化け物に恐怖を持っていないように。
化け物に挑むように。
彼はそこに立っていた。