解毒薬では無い
ピリッ
空気が変わるのが分かった。
「いい加げ……ん……俺から降りろ!!」
男の体がピリッピリッと鳴り始めている。
「まだ、使うスキルを気力はあったのか」
僕は男の拳が振られる瞬間、間一髪で後ろに飛び、避けた。
「ハアッ……ハア……殺す! 殺してやる!」
そう言って、男はポケットから薬の瓶を手に持ち、それを飲んだ。
この毒に解毒薬は無い。僕が作ったのだから。解毒薬を飲んでも意味が無い。僕はそう思っていた。
だけど、違った。
男が飲んだのは解毒薬ではなかった。
「アアァァァァァァァアァァァァア!!」
どんな解毒薬を飲んでもこんな声を出さない。
ブチっ! ブチっ! ブシャァ! シュュゥ!
どんな解毒薬を飲んでも、筋肉が切れる事は無いし治りきれていない傷口から血が飛び出る事も肌が焼ける事も無い。
「何……で……すか? そ……れ……」
僕の問いかけに男だった者の返事は無い。ただ、気がつくと目の前に拳が振られた瞬間だった。
そして、その瞬間、思い出した事がある。
元気と光輝とよくゲームや遊びをすると僕は負けていた。その時の二人の言葉はいつも同じだった。
『『咲夜はつめが甘いんだよ』』