一方、そのころ、ギルドでのサクヤについて
「あっ、お前こないだの足怪我男」
「何ですか。そのあだ名」
ギルドで初心者戦士を声をかけたのはギルドの古株である二人組の一人だった。初心者戦士は自分より年上で貫録がある戦士と弓兵に敬語を使っていた。
「いや、だってよ。また、新人がサクヤに声をかけて、バカやっていると思ったら、急に足痛くなって、サクヤの堪忍袋の緒が切れて、確実に切れさせたなと思ったんだよ」
初心者戦士は首を傾げた。
「あの兄さん、盗賊の兄さんって、有名なんですか?」
何気なく言ったのに戦士と弓兵の二人が一瞬、固まり、そして、ため息をついた。
「はぁ、まぁ、あの見た目とあの言葉遣いじゃ、しょうがないけど」
「まぁ、こいつは初心者冒険者だからな。最近、入ってきた奴には分からないよな。はぁ」
二人のその言葉に初心者戦士は困惑した。
「えっ、えっ、すごい人なんですか!?」
初心者戦士がそう訊ねると、二人は頷きあって、口を開く。
「あいつは盗賊じゃねぇ、魔法使いだ。まぁ、あいつが魔法使っているところは見たことが無いが、それでも、魔法無しでサクヤはこのギルドで一番強い」
と戦士が答える。
初心者戦士はそうなんですかと驚き声を上げた。
「その一番の証拠として、あいつはダンジョンを一人で行き来している。どんなダンジョンだって、一人で行って、生きて帰って来れない。それが、当たり前の事なのに、あいつはそれを簡単に破った。たった一人で日常の一部のようにダンジョンに行く」
と弓兵が答える。
初心者戦士は言葉が出なかった。だって、どんな手慣れた冒険者でもどんな強い冒険者でも例え、初心者向きのダンジョンにでも一人でいかない。
だって、一瞬の気のゆるみで、選択ミスで、運でどんな強くても優れていても命を落としてしまう。
それが、当たり前の考えだ。
「それに、あいつは誰とも組まないし、誰もあいつとは組まない」
と戦士が言った。
それは、初心者戦士じゃなくても不思議だった。だって、どの冒険者だって、より強い冒険者と組む事が重要だ。
それなの、なんでと初心者戦士の頭に浮かんだ言葉だった。
「それはな、あいつの戦い方が周りとは違うから。それが俺たちは怖いから」
弓兵が目線を下げて、身震いして、言った。
「サクヤは、あいつは攻撃をするために戦うんじゃない。確実に致命傷、命を奪うために武器を振り、戦う。その時の姿が、空気が、一緒にいることを否定する。サクヤはそんな事を言わないが無意識に否定しているんだよ。それに、その時のサクヤは怖く、どことなく無を感じさせる。だから、その隣に誰も立とうとしない。立ちたくないんだよ」
戦士は口調を堅くしてそう初心者戦士に教えた。