体内で
「あ、あの何で埋め込んだですか? そして、僕、何かしました?」
僕は腹の痛みを抑えながら訊ねると彼女は答えた。
「意識あったら、暴れて、運ぶのが大変じゃ。まぁ、なんか腹立つ顔で我を見ておったのも要因だが」
これは、後半のが一番の理由だ。目の動きと言葉の含みが証明している。
「あと、お主を叩いたのはなんとなくだ。お主が何かどや顔で言葉を決めていたのに、イラっとしたのもあるが」
あっ、それは、触れないで欲しかった所、今、思い出すと恥ずかしい。穴があったら、全力で入りに行きたくなった。
「それじゃあ、我はここから離れる。お主も大概にしておくがよい。それにしても、……じゅる……何と食べ応えのありそうじゃ」
えっ、食べる気ですか? 今、よだれを出した音しましたよ。 食べ応えがあるって言いましたよね、ねぇ。食ってもたぶん、脂身だらけでまずいですよ!
「はっ、危ない。危ない。我とした事が余りにも肉付きが良いからと言って、よだれを出すとは恥ずかしいのぉ」
そう言って、彼女は腕を上げ、頭を床にのめり込んでいる町長さんを彼女の影がドプンと泥水のように飲み込んだ。
彼女は部屋の出口へと歩きだす。場違いなほど自信気に高貴に歩き出す。
「あっ、そうじゃ、おい。屋敷のあちこちから火の手が回っておる。気をつけるがよい」
彼女は出口のドアの前で僕に振り返ると手を振り、さも、何気なく言うとドアノブに手をかけ、開けて、入ると閉めた。廊下に響く彼女の靴音が聞こえる間、この部屋はシーンと時が止まったかのように無音だった。
だけど、廊下から彼女の靴音が完全に聞こえなくなった瞬間、時が再び動き出したように、
「おい! あの女を追えぇ!!」
嵐のように来て、嵐のように去った彼女に面くらっていた弟さん、バルトさんのその一声に反応して、その場にいた黒ずくめの男達が全員、彼女の後を全員勢いよく追いに行った。
バルトさんも男達に担ぎ込まれて部屋を出ていった。
それは、一瞬の出来事ですぐに部屋は広々となった。
残ったのは僕と元気を殺したあいつだけだった。
「あんたはあの女の所に行かなくていいのか?」
頭をかいて、僕を見るあいつの顔に僕は反吐が出そうだ。
「心配しなくても僕なんかより彼女はすっごく強いですから。それより、あなたは依頼主、情報提供者の町長さんの弟さん、バルトさんの所に行かなくていいんですか?」
あいつがハッと鼻で笑う。
「あのボンボンは他の奴に守られてるから。俺は必要じゃないよ」
その言葉に僕は見せびらかすように笑みを作る。
「そうじゃなくて、あの人自体の心配をした方が良いですよ。だって」
「クソっ、おい、速く行け」
クソっ、何なんだよ、今日は忌々しい豚を殺せると思ったのに。なんで、あの豚じゃなくて俺が痛い目に合ったり傷ができるんだ。しかも、あの豚はまだ生きていて、変な女に連れ去られるし、町に逃げ込まれたら俺の計画が全てパァになる。ちくしょぉ、ここ数年の俺の努力が無駄になる。
屋敷の外に行った女を追うために屋敷の入り口に来た。俺を抱えて走る男のスピードを上げさせるために発破をかけるために口を開いた。
「おい! 速く、うげごぉ! こねぬかあふあ!」
えっ
「あの人が使っている薬はこの町では一軒の店しか扱っていない。だって、貴重な薬草が原料でそこら辺の薬屋では作れない薬です」
「にゃでよこぐか?」
言葉が紡げない。息がだんだんと荒く、薄くなる。心臓が、首が痛い、痛い、いたいいたいいい!!
抱えていた男は異変に気が付いて、止まった。
でも、それで、痛みは、苦しさは止まらない。止まることが無い。
「それで、その店で扱っている薬を作っているのは僕なんですけど、薬を知る、作れることは薬の反対、毒薬も知っていて、作れることなんです」
いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいい。
くるしいくるしいくるしくるしくるしくるしくるしくるしくるしくるしくるしくるしくるしい。
「それに、面白いのが、薬はある物を入れたり、触ったりすると、色が変わって、性質が変わるんですよ」
首をかき回す手が火のように熱く熱く熱く、あつい、あつい、あつい、
手のひらを見ると飛んできたナイフが刺さっていた傷が塞がれた肌が、手のひらが、傷のあった場所が、気味悪いくらい濃い緑に変わっていた。
「例えば、ある薬を飲んでいる人に何種類かの薬を練りこんだり、浸したり、漬け込んだナイフを刺すと薬と薬が体内で混ざり合って」
力が抜けて、目の前の景色が消えさぁ……。
「アッ……ェ………ッ」
「劇薬、猛毒になるんですよ。まぁ、苦しんで死ぬ薬ですよ」
笑って告げる。