影から不敵な彼女
「チっ、全然あたんねぇ」
「ちょっこまか、うぜぇってのぉ!」
「いってぇ!、俺にぶつかるな!」
「クソっ、おい、お前ちゃんと斬れよ! クソやっぁ……グ八ッ」
「おい、あいつ、人投げてくるぞ」
「クソっ、これだけいるのに何で当たんねんだよぉ! って、おいうそっだろぉ! グ八っ」
「こいつの剣に近づくな……ガハっ」
その声が僕を殺すために剣を振るった男から、攻撃を避ける時に他の男とぶつかせた男から、僕が投げた男にぶつかった男から、斬った剣先の男から、振った剣に纏った風に飛ばされた男から聞こえた。
今のところ、僕の体に傷がない。体力も気力も落ちていない。風の魔法のおかげだ。
町長さんの方も水の魔法のおかげで守られている。
でも、ある程度、敵を倒してきたと思うが、まだ、全然減っていない。
それに、そろそろ時間で時間切れだ。
僕は目の前の敵の腕を引っ張り、勢いに乗せて投げる。
投げた瞬間、誰も僕に襲い掛かる者はいなくなる。
一瞬の間が生まれる。
その瞬間、僕は目の前に広がる敵を見据え空気を震わす。
【風よ 前に広がる者達を飛ばせ】
風が、強靭な一陣の風が目の前の男達を吹き飛ばす。
僕の目の前に空間が生まれる。
だけど、僕と離れたところには多くの黒ずくめの男達が武器を持って、僕を警戒している。
その中に町長さんの弟さんが顔を引きつった顔をしていて、元気を殺したあいつはにやついて僕を見る。
ああ、今すぐにでも飛び込んで殺したい。
でも、まだ、ダメだ。
僕は一呼吸を置いて、
「そろそろ、お願いします!!」
僕の場違いな叫びに男達に困惑顔が広がるが、その下、影の中から、一部の影が僕に近づき、目の前で大きく、立体に膨らみ、人の形に変わり、
そして、
「お主は我を呼ぶか」
人の形の影から黒が、影が消え去り、戦っている間も消えなかった天井の光に照らされた銀色の髪が、紅い瞳が、不敵に光り、現れた彼女は目の前の僕に偉そうに言った。