一応魔法使い
「はぁぁ、町民の一人、二人死んでもいいじゃないか。何も権力も名声も持っていない人間が死んでも誰もこまらな」
「バカモノォーーーーーー!!」
町長さんの声がバルトさんの言葉を遮り、大きく叫んだ。部屋の空気が振動し、肌にもピリピリと感じる。後を振り返ると、町長さんがよろよろと立ち上がる。
そして、真っすぐバルトさんを見る。その顔は誇り高く見えた。少し、彼女が自分は吸血鬼と誇るように言う時と重なって見えた。
たぶん、僕がそう見えたと彼女が知ったら、蹴られて、踏まれる。うん、絶対に彼女だったらやる。
「いいかぁ! 町に住む者に死んでいい者等いない。たとえ、盗みや人殺しを行った者でも死んでいい者などでは無い。町の住人の生活と幸せを守ることが町民の役目で責任だ。私を殺してお前が町長の役目を担ってもそんな考えではお前は町長の役目を全うできない。町の人々を守れなく、苦しませる。どんなに優しくても有能であってもそんな考えを持つ者に町を守れない。お前は自分の事しか考えない。絶対に町長になんかなれない!」
そう、バルトさんに言う町長さんは地に足を着け、しっかりと前を向き、強く言葉を紡ぐ。
僕はその姿を見て、ああ、この人は上に立つべき人間。町の町長、いや、それ以上の人間だと思った。だって、こんなに町の人々や自分の役目に対して強くはっきりと自分の意思を言う人間はそういない。彼はこの町を守るために、町長であるために生きている人だ。
「うるせぇんだよ! お前もクソ親父と同じことをほざくな!」
バルトさんが立ち上がり否定するように腕を振る。
「ここまでこの町を大きく豊かにしてくれた偉大な先代、私達の父親をクソ呼ばわりとは!」
「クソだろあいつは! お前より有能な俺を次期町長にしなかった野郎なんてよ! どんだけ有能さを見せつけても俺に殺される寸前まで、最後まで俺を選ばなかったクソ野郎なんてさ!」
「殺したって、父上は野盗に殺されたのではないのか!?」
町長さんの声が震える。
「ちげぇよ。あいつはな、俺が野盗に見せかけて殺したんだよ。本当に最後まで町の事しか考えてなかったよ。あいつは。俺たち、子供の事なんて、これっぽちも考えていなかった」
町長さんの顔が歪む。それは悲しさでか、それとも、別の何かで。
でも、
「そんな事、僕には関係ないです。僕はただ、あなたたちに苦しませて殺したいだけですから」
僕は一歩前に進み、敵を見据える。
「お前、さっきからうぜぇんだよ。おい、お前たちあいつをあのデブより先に殺せ!」
その言葉を聞いたバルトさんとあいつの後ろにいた黒ずくめの男達が僕に向かって武器を持って迫りくる。
「「うぉぉーーーーーーーーーー!! しねぇーーーーー!!」」
いくつもの声が重なり僕に死ねと発して、僕に向かって武器を振り下ろす。
僕はその瞬間、短剣を強く握りしめ、言葉を 音を紡ぐ。
【風よ この者達をはね避け 火よ 剣に纏え】
その言葉が、その音が、風を呼ぶ。
風の大きな吹く音と共に僕に向かっていた男達を吹き飛ばす。
その言葉が、その音が、火を呼ぶ。
火が燃える音と共に僕の持っている短剣に纏い、短剣を炎を纏う剣にする。
黒ずくめ男達が、バルトさんが、あいつが驚いたように目を大きく開いていた。
「お前、コトノハ魔法使えるのかよ」
あいつが苦虫をかみつぶすように言う。
「ああ、使えますよ。だって、僕は弱いですけど、一応魔法使いなので」