町長の館
ガシャ、ガン、ガラガラ、パリーン。
その音と共に
「キャーー!」
「誰か! だれかぁーー!」
「嫌だぁ。まだ、まだ、死にたく、うぁっ! あッ、あぁ」
物が倒される音と逃げ惑う人の叫び声が館のあっちこっちから聞こえる。断末魔が聞こえる。そして、断末魔を叫んだ人は次々と床に倒れる。
ドサッ。
「これで、五人目と。おい、そっちは!」
「こ・れ・で七人目だよ!」
シュッ、ズシャっ。
「あっ、あっ、や、だ。しに、た、く、っ」
逃げ惑う人達をためらいも無く殺していく黒ずくめの男達、その男達に斬られ、殺された死体がどんどん増えていく。その死体達の多くは目が開いていた。虚空を見つめて、口から血を流したり、温かみの無い頬を最後の涙で濡らしていた。それを、殺した本人達の知る所も、知る由も、知ることも無かった。
ただ、ただ、無抵抗の人間を、命乞いをする人間を、男達に立ち向かおうとする人間を、互いに守ろうとする人間を、愛する人の身代わりになろうとする人間を、殺した。まるで、狩りをするように男達の顔には笑みがあった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「兄さん、はぁっ、早くこっち」
殺戮が行われている館の中で逃げ惑う人達より明らか上品で高そうな服を着て逃げ惑う優しい顔の男性と大柄な男が廊下を走っていた。二人は顔を赤くして息を切らしていたが、脂肪の多そうな大柄の男の方が優しい顔の男性より赤く息を切らしていた。
「はぁっ、はぁっ、あッ、兄さん、この部屋」
兄さんと呼んだ優しい顔の男性、弟が廊下に並ぶドアノブの一つに手を置いて、ドアを開けた。
「はぁっ、はぁっ、そう、だ」
そう言って、兄さんと呼ばれた大柄な男は弟より早く入り、弟もそれに続いて入り、ガチャと鍵を閉めた。
「はぁっ、はぁっ、ウッ、おぇ」
「兄さん大丈夫?」
「これが大丈夫に見えるんだったら、お前は目は節穴だ」
今にも吐きそうになっている兄の脂肪だらけの背を弟は優しく撫でた。
「それよりどうなっているんだ、これは!」
兄は優しく撫でていた弟の手を払った。
「私が祭り後の自分への御褒美の食事中に黒ずくめの者が部屋に侵入してきたと思ったら私を襲ってきて、私が運動神経よくなかったら今頃、死んでいたわ! これは、どういうことか説明しろ。バルト!」
弟は首を横に振った。
「自分もわかりません。僕は祭り後の記録や書面を書いていたら、突然あの人達に襲われてしまって、自分は腰を抜かす兄さんと逃げることでいっぱいで」
「私は腰を抜かしていない! あれはただ腰が急に動けなくなっただけだ! だが、それよりも今の状況をどうにかしないと。このまま、私の使用人たちを見殺しにできない。これ以上、殺させてはいけない」
「ですが、屋敷の警護を当たっていた兵はもう殺されていましたし、屋敷から町は離れていて、今の状況を町の人達に知らせる事が出来ませんし、救援は見込めません。それに、このままだと使用人だけでなく自分らも殺される可能性は高いです」
「くっ、じゃあ、どうすれば」
兄は頭を抱えた。
兄の姿を見た弟が
「それじゃあ、自分がおとりになるので、兄さんはそのすきに逃げて、町に救援要請してください」
兄の目は見開いた。
「何を言っている! 私はお前をおいていか」
ドガっ! ガン! ガラガラ!
兄の言葉が言い終わらないうちに兄弟達のいた部屋の壁は崩れ、壁がなくなった部屋は
壊された壁から武器を持った黒ずくめの男達が入ってきた。
そして、兄弟達の目の前に目つきの鋭い男が立った。