ナニモナイボクの話
なにも無い僕のただの昔話といいますか。
本当に意味のない話です。
話しても戻ってこない話ですが。
僕は母方の弟、叔父さんの奥さん、叔母さんに育てられました。
母は僕が三歳の頃に死にました。交通事故で死んだと聞きました。だけど、その時の記憶はうろ覚えですし、今ではもう、僕はほとんど母の記憶がありません。
そして、僕は父親が誰か知りません。叔母さんが言うにはどこかの誰かに遊ばれてできた子が僕らしいです。
母が亡くなった後、叔父さん夫婦に引き取られたのですけど、叔父さんも引き取られるとすぐに事件に巻き込まれて死んで、実質、僕は叔母さんに育てられました。
そこには、しょうがないのでしょうけど、愛情が全くありませんでした。
愛情はありませんでしたけど、いじめることがなく着る物や食事に困ることはありませんでしたし、施設に入れられる事はしませんでした。でも、愛情を感じることはありません。
叔母さんは叔父さんが死ぬと早々に再婚しました。その人も僕をいじめることは無く、ただ、僕の事を言葉に出さないで嫌がっているのが子供心に分かりました。
だけど、僕は寂しくなかったです。
僕には叔母さんの子供、僕の従兄弟、同い年の光輝、その兄と光輝の異父弟、元気がいたから、寂しいことも悲しいことも無かった。僕は一人では無かったんです。
光輝の兄は僕のことを本当の弟のようにかわいがってくれて、光輝の異父弟は僕になついてくれた。
そして、光輝と僕はいつも一緒にいた。遊ぶ時も寝る時も一緒だった。お菓子を取られたり、いたずらをされることも多かったけど、光輝はいつも僕を引っ張ってくれた。僕と光輝は互いの事がなんとなく分かっていました。そこに、元気も加わって、僕は寂しく一人だと思うことは無かったんです。僕はこれからもこの日常が続くと漠然に思っていました。
だけど、その日常も思いも突然に消えてしまったんです。
ある日、光輝と一緒に下校してたら、おじいさんに道案内を頼まれて、僕はおじいさんに道案内することになって、光輝に先に家にかえってもらったんです。
それが、いけなかったんです。道案内せずに一緒に帰ればよかった。光輝が道案内すればよかった。
そうすれば、光輝は今を生きていたんでしょう。
おじいさんに道案内を終えて、家に帰ると光輝はまだ帰っていなくて、どれだけ待ってもどれだけ時間が経とうが帰ってこなくて、大人たちが捜索に出た時、もう、何かが戻らないと感じたんです。そして、叔母さんに叩かれて、叔母さんのお前が変わりなればよかったと言葉を聞いて、僕はただその言葉を受け入れるしかなかった。
そして、数日後、光輝は帰って来たんです。頭の無い光輝のもう二度と動かない体が。
それから、光輝の兄は僕を二度と弟のように接することが無くなって、光輝の異父弟も叔母さん家族が僕に関わらせないようにしました。僕は家の中で誰にも目を合わせてくれない透明人間になったんです。
でも、それより、僕のせいで光輝がいなくなったことが、光輝を死なせてしまったことが、光輝と二度と会えないことが、悲しくてつらいんです。
光輝は頭もよくて、運動もよくて、明るくて、クラスの人気者でした。何も得意な物がなくて、何もない僕と違って、光輝は全部持っていた。そんな、光輝の代わりに僕が代わりになればよかったんです。
元気はそんな僕を励まして、変わらず接してくれました。僕は元気がいたから、ここまで生きてこられた。光輝の分まで生きようと約束をしました。そのおかげで、生きることに対して、貪欲になりました。あなたに殺されそうになった時も生きたいと思ったんです。
だけど、僕は何で自分が生きているか分からないんです。何もない僕は生きている必要がない。光輝の代わりに死ねばよかったです。僕はずっとそう思って生きてきました。今も思っています。
ナニモナイボクガカワリニシネバヨカッタハナシデス。