フードの中の顔は
「どこもかしこもお祭り騒ぎで人間どもは騒いでおるのにここだけは静かじゃ」
彼女は僕の隣で歩きながら、そう呟く。
「そうですね。お祭りの日にわざわざお墓場に来る人なんて、そうそういませんし」
僕は横目で日本とは違う、西洋式の墓を見る。外国のドラマにしか見たことがなかったそれらの中を僕と彼女は歩く。僕は白い花束を持って、
「そうじゃな。人間とは祭事の時は亡くした者を忘れて騒ぐからの。まぁ、中にはその日常とは離れた祭事の時でも忘れない者もおるが」
彼女はたびたび、こんな風に人を知っているような。見透かしているような話をする。
それが、僕には疑問だった。
僕は彼女の事を会った以来の事しか知らない。知ろうと思わない。
なんとなくだが、彼女は自身の事を話したくないんだと感じたから、僕は聞かない。聞こうと思わない。
だけど、なぜか、今、聞きたいと思った。
「あの、答えなくていいですけど、どうして、あなたは人間について知ったかぶりをするんですか? 知ったかぶりするほど人間を知っているのですか?」
言った瞬間、あっ、知ったかぶりは失礼だったと後悔した。
「はぁ?」
フードを被った彼女の口から怒気を含んだ言葉が出た。
「あっ、すいません。失礼でし」
「お主、失礼じゃの。今回は許そう。今の我は気分が良いからの」
僕の謝罪は彼女のその言葉で最後まで言うことができなかった。
この場合、謝罪を続けるより話を聞いた方がいいんだろう。
「気分がいいんですか?」
僕はそう訊ねると彼女は軽やかな声で紡ぐ。
「ああ、良い。この空気の冷たさと静けさは我ら、吸血鬼にとっては良いものだ」
僕には墓場独特の冷たさと町の喧騒さとは反対の不気味な静けさしか感じないが、彼女にとっては良い所なんだろう。
「さっきの話に戻すが、お主には我が人間を知ったかぶりをしているように見えたのか?」
「あっ、えっと、それは」
「いいから、見えたか見えていないかを言え」
彼女の鋭い声の命令に僕はすぐさま
「はい。失礼ながらそう見えました!」
と声を少し大きくして正直に答えた。
「ほう、お主には我が知ったかぶりしておるように見えておるのか」
彼女はそうか、そうかと頭を縦に振るう。
「あっ、いや、これは、その」
僕はしどろもどろになりながら彼女に弁論しようしたが、
「良いじゃないか。お主がそう見えるのなら、それで」
「えっ」
彼女は全く怒っていなかった。腹パンチで墓にぶつかるのではないかと予想していたが、全く違っていた。彼女は肯定してくれた。
「それで、お主は我が人間について知ったかぶりするぐらいには知っていると思っているようじゃの」
「あっ、はい」
僕は正直に返事した。
少し、間を置いてから彼女は言葉を紡いだ。
「さぁ、我は知っておるようで知らぬのかもしれない。知らぬようで知っておるのかもしれない。ただ、頭がそうだと思う事を我は口にしておる。どうして、理由も考えないでな。我はそれが少し自分自身の事だが、悲しいと思っておる」
彼女は今、フードを被っていてどんな顔しているのか隣にいるのに僕は分からなかった。僕は見ることができない。