最悪なのはどっち
「はあ、なんで僕がやるんだろう。絶対怪我おうのに、なんで」
僕はダンジョンに向う道の草っ原を歩きながら呟いた。その言葉は夜風に乗って消える。足取りはだんだんと重くなるが比例して、ダンジョンにもだんだんと近づく。
「しかも、夜にしか現れないって、最悪だよ」
夜になるとモンスターはより攻撃的になる。そのため、初心者も慣れている冒険者達でさえ、夜はあまりモンスター退治やダンジョンに入らない。僕も夜はモンスターが少ない森で薬草取りするぐらいだ。
それなのに、どうして弱い僕が行くことになるんだろう。こういうのは、もっと強くて慣れている人が行くべきではないだろうか。なんで、僕程度が。
「はぁ、憂鬱だよ」
ため息をついていると後ろから物音がした。
キィィーン。
僕はとっさに、短剣を抜いた。
短剣とモンスターの爪がぶつかる音が原っぱに響く。
爪を持つモンスターはクルリと空中に舞い、地面に着地すると僕に威嚇する。
モンスターは僕を殺す気満々だ。
僕はモンスターに振り返り、見すえた。
相手は鋭い爪を持つ。
前はよくその爪で怪我を負った。
だから、相手の行動原理はよく分かる。
僕は足を踏み切り、短剣をモンスターに
振り下ろした。
モンスターは横に避ける。
だけど、横には血飛沫も飛んだ。
振り下ろすふりした短剣は横に線を描いた。
モンスターの喉を掻き切った短剣の刃には血が滴っている。
モンスターは僕の目を見て、倒れた。
「ごめんなさい」
僕の言葉は夜風に攫われた。
「もう、なんで、こんなに早く着いちゃうのかな。泣きそう」
ダンジョンの入り口で僕はため息を吐く、これで、今日何度目のため息だろう。嫌になる。
「はぁ、行くか」
僕は短剣に付いている血を払い。
ダンジョンの中に入っていった。