盗賊達の話 IN牢屋
「おかしらぁー! 大丈夫ですか?」
隣の牢屋から仲間の心配する声が聞こえるが、答えられない代わりに体をビクッと大きく動かし、さらに体の震えを強くする。今の俺はすごくみじめで情けない姿をしているだろう。だけど、震えは止まらない。四六時中、頭にあの声が、あの姿が思い出される。あの恐ろしさが体を襲う。
「やっぱり返事がねぇ。怯えちまっているよ」
「まぁ、しょうがねぇよ。こっちも震えている奴らは多いし、何より、体がおもてぇし、だるくて思い通りに動かねぇ」
「はぁ、誰だよ。あの二人を襲おうって言った奴、襲ったせいで、フードの奴に体はボロボロにされるしお頭以外の全員の骨が数本折られたし、気絶して目覚めたら自警団が目の前にいて、牢屋にぶち込まれてよぉ」
「しかも、フードにやられていないお頭は気が付いてからずーと隅っこで別人みたいに誰よりも怯えて震えてしな。一体何があったんだか」
「そもそも、誰だよ。あいつらだったらやれるって言ったの」
「お前だよ!」
まだ、少し動けて口が達者な仲間達はそんな会話で口喧嘩を繰り広げていた。
牢獄の中でもいつもの光景、いつもの会話が繰り広げていた。
いつもだったら、それを酒を飲みながら見たり、混ざったりするが、今はあの時のあいつの笑みが、恐怖が俺を襲う、震えが止まらない。
ふと、俺は誰かの目線を感じた。うつむいていた顔を上げるとなぜか俺以外誰もいない牢屋、その真ん中に、黒い物があった。
それを影だと気が付いた時には目の前が真っ黒に染まった。
俺は影に飲み込まれた。
「お前ら、いい加減にしろよ。お頭も震えていな……い……。あれ、お頭がいない」
「はぁ、そんなわ……あっ、本当だ」
盗賊達の会話は親方がいきなりいなくなった盗賊の頭の話に変わっていった。