ジャンさんはそこまで、情報を売っていない。
「それで、どこからどこまでの情報を売ったのですか?」
「どこからどこまでって?」
「そのままの意味です。ジャンさんはこの町に異世界から来た人が二人いるって事しか情報を売っていないんじゃないですか?」
サクヤは俺に返事を促すように言った。
「どうしてそう思うだ? ちゃんと名前と場所を言って、教えたかもしれないぞ」
俺が返事の代わりに答えるとサクヤは目元を和らげて、
「そんな事はありえませんよ。そうだったら、元気はもっと早く殺されていたし、もしかしたら、助けられたかもしれないんですから」
サクヤは何の感情も入れず淡々と話す。
「もし、名前も場所も教えていたら、もう少し早く殺されています。こんなに間が空く事は無いですよ。それに、あいつは僕をおびき出すために元気の姿を使ったんです。同じ異世界転移者をおびき出すために。僕の事を知っていたら、町をぶらぶらせずに真っ先に僕の所に来ますよ。だけど、僕がどこにいるのか分からないからあいつは夜の町を歩いていた。僕を見つけるために元気の姿をして」
サクヤの話の最後の方はサクヤは短剣を強く握りしめていた。見てるこっちが痛くなるくらいに。
「ああ、そうだ。俺はこの町には異世界転移者が二人いるって事しか売っていない。場所も名前も言ってない」
「やっぱり、そうですか」
サクヤは安心したように息を吐いた。だけど、すぐに真剣な顔をした。
「それじゃあ、その男が元気の居場所を誰から教えてもらったか分かりますか?」
俺は、ハッ? と声を漏らした。
「その男はチマチマと聞き込みをして、居場所を掴んだじゃないのか? それか、別の情報屋に売ってもらったか?」
サクヤは首を横に振る。
「それは無いと思います。あの男が自分から情報を集める人に見えませんし、ジャンさん以上の情報屋はこの町にはいません」
俺は頭を照れ隠しにかいた。
「それは、ありがとうよ」
「本当の事ですよ」
サクヤはそれに、と呟いて、何かを思い出すかのように、絞り出すかのように言った。
「あいつが言っていたんです。元気の居場所を教えてもらった代わりに頼まれた人を殺すって、だから、あいつはまだこの町にいます。また、誰かを殺すつもりです」
サクヤの目に黒い焔のような物が動いたように見えた。
「だから、僕はその殺される人が殺される時にあの男を殺します」
サクヤは再び、短剣を握る手に力が入った。
殺意と恨みを込めるように。