遅咲き冒険者リエンの初クエスト
冒険者にはランクという制度がある。
ランクはD〜Sまであり、俺の今のランクであるDランクは初心者試験を終えた者は皆なれるので実質一番下になる。
Bランクにもなれば“中堅冒険者”としてそこそこ名も売れて、ギルドからの信頼も大きく変わる。
その上のAランクともなれば、一流の冒険者として各地にその名が知れ渡るほどだ。
帝都で有名な冒険者のほとんどがこのAランクに位置している。
その上にSランクというのもあるのだがこれはいまいち基準がよくわかってない。
全てを超越した化け物だと言う話もあれば、一人で小国程度なら壊滅させられるとかなんとか。
実際に見た訳ではないので本当かどうかは定かではないが、聞く限り人外の職業なのだろう。
俺には無縁の話だ。
噂では世界に数えるほどしかいないらしく、ここセントラルの冒険者ギルドにも何人か在籍しているらしいが、ギルドマスターをはじめ、古株の職員と冒険者くらいしかその姿を見たものはいないらしい。
まぁそんなとんでも超人達と会うことなど一生ないだろうから特に気にもとめていないのだが。
そして、俺の目の前にいるクライマー泣かせの絶壁胸人ことアウラもまたその有名な冒険者の一人というわけだ。
そんな彼女は僅か17歳で実力もさることながら見てくれも良いときた。
天は二物を与えたのだ。
だがその代償は大きく、きっと彼女はこの先一生アンチクライマーとしてその胸と一緒に生きていくのだろう。
とは言っても、見た目がかなりいいので今では冒険者の中でもアイドル的存在になっており、かなりのファンがいるらしい。主に男だが。
残念な胸が逆に良いと言っているファンの奴らとは俺は一生上手い酒など飲めないだろうが。
「ちょっと何よ人をかわいそうな目で見て。絶対失礼なことを考えてるでしょ?」
おっといけない。俺としたことがどうやら顔に出てしまっていたらしい。
「いや、ザイルも何も引っ掛ける場所なんてないなぁって思ってただけだよ」
俺はそう言ってアウラから目をそらした先に、クエストを受注するための依頼書が貼ってある掲示板が目に入った。
とりあえずせっかくDランクになったのだ。出来そうな討伐クエストでも探しに行こうと掲示板の方に向かった。
横から「はぁ?それどーゆう意味よっ!」とか「ちょっと!無視すんじゃないわよ!」とか聞こえてくるがスルーしておこう。
掲示板の前まで来た俺は貼りだされているたくさんの依頼書に目をやりながら、俺のランクでも受けれそうなクエストを探していると、横にいたアウラが一枚の依頼書を指差して言った。
「これなんていいじゃない?ワーウルフの討伐。数はえっと…5体なら楽勝ね。場所も死者の森ならここからそう遠くもないし。ねぇ?これにしましょうよ」
と、アウラはその依頼書を手に取り俺に見せてきた。
「なんで俺の冒険者としての初クエストをお前が決めるんだよ。っかそれBランク推奨って書いてあるじゃねえか!!俺を殺す気か!?」
アウラが取った依頼書に書かれているワーウルフというのは狼の魔物で、性格は肉食で獰猛であり危険性は高い。一匹なら低ランク冒険者でもなんとかなる場合もあるが奴らは群れで動く習性がある。
その為ワーウルフを一匹見つけたら10匹はいると思えというのが冒険者の間では常識である。
そんなクエストにさっきDランク(駆け出し)に上がったばかりの俺を送り込もうとはなんという悪魔的発想なのだろうか。
「大丈夫よワーウルフくらい。あいつら群れで来るから5匹なんてすぐよすぐ。探す手間が省けていいじゃない?」
言ってる意味がわからない。いや、意味は理解できるが納得はできない。
どうやら最年少でAランクになった神童さんとは住む世界が違うらしい。
俺が駄目だと手を横に振ると、アウラは面白くないとでも言うようにムッとした顔で違うクエストを探しだした。
「せっかく私が選んであげたのに。ワーウルフ程度でビビっちゃって根性ないわね。あーあ情けない。29にもなってほんと情けない」
こいつ今なんて言った?
「29にもなって……?おぉぉれぇぇぬぉぉをことくぅあああっ!!!」
「キャッ!?な、なによ急にビックリしたじゃない!!」
聞き捨てならん。ビビる?そうじゃない。今の俺の実力では適してないと言っただけでなんで俺が根性なしみたいな話になるんだ?っか歳関係ねぇし!!関係ねぇぇしっ!!!
おのれ小娘めぇ…なんでもかんでも思ったことを口にしよってからにぇ…
その根性とやら見せてやろうじゃねぇか!!
29歳漢リエン!!いっきまあああああすっ!!!
俺が覚悟を決めた頃、アウラが手に取った別の依頼書に周りの冒険者がざわついた。
「あ、いいのあるじゃない。“レオウルフ”1体か。Aランク推奨って書いてあるけど、こいつはワーウルフみたいに群れないからまぁその点に関しては楽ね。どうリエン?これだったらいいでしょ?」
『お、おい、あれレオウルフの討伐クエストだろ?』
『さすがはあの“神童”の仲間だぜ。ワーウルフじゃ物足りねぇってか』
『決して誰とも組もうとせんかったあの神童が認めた男じゃ。もはやその実力は疑う余地などないじゃろうてフォッフォッフォッ』
「上等じゃねええかぁ!!なんでもこいやあああ……え?レオウルフ?」
「そう?なら受付してくるからその辺で待っててね♪」
俺が賛成したことがそんなに嬉しかったのか、アウラはエンジェルスマイルをこちらに向けてから、受付カウンターへと走っていった。
俺は考えることをやめた。