遅咲き冒険者リエンの冒険者デビュー
【帝都セントラル“冒険者ギルド受付カウンター”】
「はい。これで手続きは終了になります。今日からリエンさんもDランク冒険者になりますから、討伐クエスト等も受けれるようになります。ですがまだまだ駆け出しですので決して無理はしないでください?毎年Dランク冒険者の死亡率が多くなってますので、リエンさんも命は大事にしてくださいね?それと冒険者における注意事項等ですが…」
齢い29でやっと俺も冒険者の仲間入りか。俺の年齢で冒険者デビューするやつなんてほとんどいない。いたとしてもそいつは余程のアホか、はたまた多額の借金があるとかだ。29歳ともなれば大体の冒険者がこの道10年近くはなっているのがほとんどだ。
まぁ俺がそれを気にしてもしょうがないか。
今回の初心者クエストも散々な目にあったし…
普通は数日も掛からずに終わるはずの初心者冒険者チュートリアルとも言える一番最初のクエスト[薬草採取]と[魔物討伐]。
初心者冒険者が一般冒険者であるDランクに上がるための試験。
初心者用なだけあってこのクエストはクエストと呼べるようなものではない。
正直冒険者じゃなくてもこなせる人は結構いるくらいだ。
だが、俺はそれに1年以上も掛かってしまった。
それはなぜかと言うと、薬草等の葉を主食としているイナゴ型の魔物が10年ぶりの大量発生が原因だ。
そのせいで薬草だけではなく、食べられそうな草木は全て食われてしまった。
おかげで薬草を求めて国をいくつもまたぐ羽目になり、戻ってくるのに時間が掛かってしまったというわけだ。
まぁ時間が掛かってしまったのには他にも理由はあるんだが、長くなるから割愛しよう。
全く運がない…だが、それでも今日俺は晴れて冒険者になれた。
これから俺を待ち受けるであろう数々の冒険と出会いに胸膨らませずにはいられない。
願わくば胸の大きな彼女が欲しい。
例えば目の前でこちらを睨みつけている彼女のような…って何で睨まれてんだ俺。
「リエンさん?私の話しちゃんと聞いてますか?途中から思いふけったような顔をしだしたかと思えば呼んでも反応ないですし。リエンさんの為に言ってるんですからね!」
あーそういうことかどうりで。しかし俺の為にか…なんかいいなそれ。
怒った顔も可愛いし、おっぱい大きいし、優しいし、やっぱり大きいし、サラちゃん結婚を前提に揉ませてくれないかな……
「ちょっとっ!!聞いてるんですかっ!!!」
「あーごめんごめん。しかしサラちゃんは怒ったおっぱいも可愛いね」
「え?」
「ん?」
おっふ……今更撤回しようにも良い言い訳が思いつかないほどの最低な言葉が…
おっぱいばかり見てるからこういうことになるんだ。…いや違うか。
しかしどうするか…ここは“大人の男性的余裕”を発動させつつ、
“聞き間違え”という素敵な呪文を唱えればまだ…
「聞き間違いですかね?なんか怒ったおっぱいがどうとか言われた気がしたんですが?」
間に合わなかったああああ!!!
どうするよ俺。これどうするよ。考えろ。考えるんだ…
今更言い間違えましたなんて通用するわけない。サラちゃんしっかりおっぱい言ってるし。
この状況を打破する最善の言葉を考えるんだ。
俺の中に眠る全俺よ!!俺に勇気と知恵を与えたまえええ!!
『カチッ』という音が頭の中で鳴り響いた瞬間、数多ある言葉のピースが全て収められたような気がした。
「その怒れる二つの巨峰を前に、今の俺では力不足らしい。出直してくる」
「いえ結構です。これが帝都セントラルのギルドカードになります。ではこれにて説明は終了になります。失礼します」
たんたんとそう言って彼女は窓口の奥へと消えていった。
全然収まってなかった。終わった。
そりゃそうだよなとほほ…
まぁ過ぎたことを悔やんでもしょうがない!
前を向くんだ俺っ!!
帝都で名を上げてもう一度サラちゃんにアタックしよう。
一人でうんうん言っていると横から声をかけられた。
「あんたあの娘に何したのよ?すごい顔してたわよ」
まだ少女のあどけなさが残る端正な顔立ちと、肩より少し伸びた淡いブロンドヘアーを靡かせながら、俺に話しかけてきた彼女の名前はアウラ=サーティーン。知り合ってもう数年になる俺の数少ない友人の一人だ。
アウラは帝都でも有名な冒険者の一人である。
確か最年少でAランクまで昇格したとかで、“神童”と呼ばれている若手最有力の実力者だ。
だが絶壁でもある。