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03話 何で私は

「私…これからどうなるんですか……」

沢山の涙を流した少女は少し落ち着いた様だ。

涙を流した所為で可愛いらしい目と鼻は真っ赤で、少し鼻水も垂れていた。

それは当たり前の事だろう、こんな少女があんな目に会い死にかけたのだから。

そんな中で彼女は自分の先の事を心配していた、あの地獄を生き残った自分がどうなるかということを。


「……それについてだが…」


「貴女、親に売られたよね。」

俺の言葉を遮り、俺が言おうとした事を先にアリスが喋る。

俺が暗殺した対象の豚野郎、アイツは裏の世界の人身売買を利用し自分の歪んだ趣味に合う女性達を調達(・・)していた。

表の世界で誘拐などするより、裏の世界で買う方が足がつきにくい。

裏の世界では、その商品(・・)の情報を完全と言っていいほどまでに抹殺し最初から存在しなかった事にする。

この裏の世界では、そんなドラマ染みた事が普通に行われている。

何せ各国の有名なお偉い方さん達もこちらの世界を利用してるからな……


「……仕方無かったんです。」

少女は目線を下に向け、声を振り絞る様に喋る。

しかし、彼女の両手は自分の弱々しい声に反抗するかのように力強くぎゅっと固く握られていた。


「……何が仕方ないの?」

アリスが機械の様に淡々と言葉を放つ。

だが、彼女が放つ言葉は鉛の様に重く、妙な威圧感があった。

そして、その青い瞳は少女を計るかの様にじっと見つめている……


「私は……」


「…貴女は親に見捨てられたのよ、金の為にね……」

アリスお前……


「……貴女に何が分かるんですか、私の気持ち何て貴女には……」

少女は、より拳を握りしめてアリスを睨みつける。

でも、アリスは……


「……分かるわよ、私も貴女と同じだもの。」

アリスは顔色一つ変えずに言う、でも俺には何となくだが彼女が少し悲しんでいるように見えた。

何か冷たくて深い底がしれない物を……


「それはどうゆう事…」


「貴女と同じで親に売られたのよ、私も。」


「……えっ!?」


「貴女の両親がいい人なのかは知らないけど……いいえ、どんな理由であれ自分がお腹を痛め、愛する人との間に出来た大事な子供を売る親はクズよ。

それもとびっきりのクズ野郎ね。いい? この世で最も罪深くて恥じるべき行為は自分の子供を売る事よ。

だから、貴女は何も悪く無いし、ごちゃごちゃとそのクズ野郎の事を考えるだけ無駄。

……それが私が今まで生きてきた中で出した答えよ。

血が繋がっていても親子とは限らない、血よりも何よりも大事なのは本当にその人を愛し自分の全てをかけてでも守れるか。

…それが親という子を守るべき存在よ……」


「……」


「…ごめんなさい、少し言い過ぎたわ。」

アリスは下を向きながら早足で治療部屋を出て行く。

彼女もまた何かを抱えて生きている者の一人なのだ、人間は皆何かしら問題を抱えて生きている。

俺達はその抱えている物のが他人よりも重く、この世界では生きづらい……もしかしたら俺もアリスも他の闇の住人達もどこか心の底で死に場所を探しているのかもな…本当素敵な人生を有難う神様、そしてクソッタレがくたばれ。


「……私は…」


「まあ、気にするな。アイツなら大丈夫だ。」


「……は…い。」


「……急で申し訳ないがが君の選択肢は二つだ。

こちらとは違う表の世界で誰かの養子となるか、それとも児童養護施設に行くか。

どっちの選択肢を取っても出来る限りの事はする。」


「…ハハッ、私は愛されていなかったんだ……」

少女の両手は先程とは違いだらんと脱力しており、黒い瞳は視点があっておらず、その目は文字通り死んでいる。

その様子はまるで最初の頃に見た死にかけた彼女の様だった……


「何で……私…あっ、もう駄目だ…」

……危険な状態だな、このままだと体は大丈夫でも彼女の精神が壊れてしまう。


「俺を見ろ。」

俺は少女の肩を優しく掴み、その悲しい瞳を見つめる。


「…何で……私は産まれたんだろう…」

彼女は目から小さい涙を流した、本当に小さい小さい一つの涙を……


「…頼む、そんな事を言わないでくれ……」

自分の視界が霞んでいるのが分かった、彼女を心音と重ねているのかは自分でも分からないが。

その言葉を放つ彼女があまりにも悲しく、あまりにも孤独で……


「何で…誰も…愛してくれないんだろう…」


「……一緒に住もう、そこで死ぬ理由よりも生きる理由を見つければいい。

駄目か…?」


「……」


「…俺は妹を殺した奴を探してるんだ、俺が其奴を殺した後でまだ死にたいのなら俺が君と一緒に死ぬ。

俺は殺し屋だから約束は必ずは守る。

俺は君を一人しないし、悲しい思いや淋しい思いもさせない。

それじゃあ駄目か……?」


「……」


「……俺も怖いんだ…」

気がつけば俺の目から涙が溢れていた、顔はみっともない位にぐしゃぐしゃだろう。

涙を流すと同時に何かが心の中で弾けた気がした、それは張り詰めた弦のようでずっと俺の心の奥底を支配していた物。

でも、それの正体は正確には分からない……


「……」

彼女からの返事は無かった。

でも、彼女は俺の両手を握っており俺と同じく顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。

その小さいな色白の手は不思議な程に温かく、何故だか凄い落ち着いた気分にさせてくれた……

俺が泣いたのは妹の心音が死んだ日以来だった。






_________________






「これからよろしくお願いします。」

少女が深々と真っ白な頭を下げ、俺に丁寧にお辞儀をする。


「こちらこそよろしくお願いします。」

俺も彼女深々と頭を下げ、お辞儀をする。

俺と彼女が互いに泣きあってから3時間後、俺達は一緒に住むことを改めて決定した。

彼女の本名は東雲空と言うらしい、偶然にも俺の下の名前と一緒だった。これも何かの運命だろうか? それとも残酷な運命の女神様の悪戯だろうか? 今はそれは俺には分からない、でもいつか答えが出る日がいやでも来るだろう。

そう、いつかきっと……


「……随分と仲良くなったね空君。」

2時間程前から帰っていたアリスが治療部屋の隅っこの黒いソファーでくつろぎながら喋る。

最初、気まずそうに治療部屋に入ってきた彼女だが俺達の様子を見てすぐに察した。

このスキルをもっと他の場でも活用してほしい、特に俺に対して……


「まあ、その…」


「……頼んだわよ。」


「…! ああ、分かってる。」

なんだかんでお人好しなアリス。

どうやら彼女の表情と物言いから察するに元からここで引き取るつもりだったらしい。

彼女を見てここの病院の先代・・の事を思い出して自分と重ねたのかもな……


「あっ、まだ空は安静だよな。」

名前が一緒だとややこしいな、自分で自分の名前を読んでるようでむず痒い気持ちがする。

空も少し笑ってるし……彼女が少しでも元気なって本当によかった。


「そうね、後一日は動かずにここで寝てなさい二人・・とも。

空君は働きすぎでその内、体を壊すわよ! もう一人じゃないんだからしっかり休んで!」


「 「はい。」 」

俺と空は二人同時にアリスに返事をする。

これから先がどうなるかは分からない。

でもどんな結末でも最後まで彼女を大事にしたい俺が色々と出来なかった分、彼女には人生の喜びを知ってもらいたいし、その中で自分の生涯のパートナーを見つけて誰かを愛する喜びを感じて欲しい。

そして願わくば彼女の人生に俺の人生に与えられ無かった分の幸福が訪れますように……





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