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01話 確かな繋がり

汚物の様な臭いが鼻を刺激し、全く清掃されて無い狭い裏路地。

そこの角を曲がった先の隅っこに小さな病院があった。

見てるこちらが心配するほど見た目はひどく、「斉藤病院」と小さく書かれた表札も風化してボロボロだった。

この特殊・・な病院の古くからの客じゃないとあの擦れた文字の看板は読めないだろう。

先程、俺が始末した大手ゼネコン企業のCEOである○○、アイツは当然ながら趣味の拷問を行うときは裏の世界の方に来ていた。

綺麗な表の世界とは違う裏の世界、ここは日本でありながら日本ではない。

闇の住人と一部の権力者達だけが知っている生臭い血の惨劇と醜い欲にまみれた汚い世界……

だが逆にこの事が助かった、表の世界の方で対象が活動していたならば後始末や証拠隠滅に手間がかかってこの少女を助けるのが遅れたかも知れない。

裏の世界ならば電話一つで後始末等などはどうとでも出来る、ここはそんな世界で人の命など軽いのだ。

そして幸いな事に対象を始末した場所からその「斉藤病院」は近かった。



ガシャーン!



取っ手が外れたドアを勢い良く俺は蹴り飛ばす。

てか、このドアまだ修理していなかったのか……

相変わらずボロい、そう思いながら俺はここの主である闇医者の名前を大きな声で呼ぶ。


「おーい、アリス! いるんだろ?頼むこの子を見てくれ!」


俺の言葉に対する返答かの様にドンッと何かが倒れる音が病院に響く、暫くすると奥の方から

「連れて来て~」と言うヤル気の無いダルそうな声が聞こえてきた。


「分かった!」

俺は少女をしっかりと抱え直し奥の部屋の方へと入っていく。

入った部屋にはよく知る女性がいた。



「いや~、久しぶりだね空君。」

この適当な感じで喋る目の前の白衣を着た女性こそが、ここの病院の主で闇医者であるアリスである。

古い木製の椅子に座っている彼女はスラッとした長い脚を見せびらかす様に組みニッコリと笑いながら俺に喋りかける。

近くには空の大きな酒瓶があったので、ドンッという音の正体はこれだろう。


「空君、その子どうしたの?」


「……クソ野郎を始末する時に拷問されてた子だ。

息があったから放っておけなかった……」

少女を診療台にゆっくりと下ろし、アリスと喋る。


「……その子を助ければ自分の過去や罪悪感が軽くなるとでも?」


「そんな事は一ミリも思ってない。

頼む助けてやってくれ、金は良い額を払う。」


「殺された妹さんにその子の姿を重ねたのかしら?」

その彼女の言葉に反応し俺は無意識の内に鋭い殺気を放つ。

場の空気が変わり一気に重圧感が増し、空気が冷たくなるのが肌を通して分かった。


「……冗談よ。直ぐ手当てにうつるわ。」

アリスは古い木製の椅子にからガタッと立ち治療の準備をする。


「……頼む。」

そう言い俺はアリスの邪魔にならない様に治療部屋から出ようとする。

ギシギシと年季が入った綺麗な木目の床が音を立てる。

少女を下ろした筈なのに体は先程より、何故だか重たい気がした……


「あっ、ごめんけど空君、チェシャにご飯上げといて! 

出てすぐの右の部屋に猫缶があるから!」

大きな白いマスクと薄青色のゴム手袋をはめたアリスが慌ただしく俺に言う。


「……ああ。」

そう言うと俺は静かに治療部屋を出て、右の部屋にある猫缶を取りに行く。

部屋にあった幾つかの猫缶の中から一つを適当に取り、腹をペコペコに空かせているだろうチェシャの元へと行く。

狭い病院内をうろうろとしていると、いた。チェシャだ。


「久しぶりだな…」

フサフサの毛並みで純白と言っても言いほど白い毛色をしているこの猫がチェシャだ。

品種はブリティッシュショートヘアと言う種類でどっしりとした体型をしている。

「不思議の国のアリス」のチェシャ猫のモデルにもなった品種だ。

だからチェシャと彼女は名付けたのだろう、闇医者であるアリス、彼女の本当・・の名前を俺は知らない。

俺は一応、本名を彼女に名乗っているのだが……

まあ普通は本名なんて名乗らないよな、俺は偽名を使うのが面倒くさいから本名でいいが、それに迷惑がかかる家族もこの世にはいないんだしな……


ミャアーーと言う、チェシャの可愛い鳴き声が俺に向かって放たれる。

どうやら相当お腹が空いてる様だな。

チェシャに近づきながら猫缶のタブに人差し指をかけパキッと俺は開ける。

開けた瞬間、脚をガジガジと引っかかれ、早く頂戴と要求される。


「分かった、分かった、ちょっと待て!」

猫缶の蓋でチェシャが怪我しない様に完全に蓋を取り外し床にコトッと置く。

やはり相当お腹が空いていたようで置いた瞬間に

ご飯に夢中で齧りつく。


「慌てずに食えよ…」

ご飯を夢中に食べるチェシャを軽く撫でると俺は少女のいる治療部屋の近くのボロくて白いソファへと向かう。

治療部屋では、まだアリスが治療を施してるのが分かり、凄まじい集中がこっちまで伝わてくる様な気がした。


「アリスが本気を出すって事は危なかったな……」

アリスは闇医者だが腕は確かで相当な物だ、わざわざ表の世界からお客が来るほどだ。

その彼女があそこまで集中するって事は相当な状況なのだろう。

俺が仕事でしくじって腹を3発撃たれた時に彼女は酒を飲みながら10分で俺の処置を済ませた。

まあ要するにアリスは天才だ、性格と趣味に少々難があるが……

それでもアリスなら少女を助けてくれるだろう、俺を助けてくれた時のように。

たまに挑発する様な事を俺にアリスは言うがそれも俺のために言ってくれていると理解はしてる。

取り敢えず今はアリスに任せるしかないな……





_________________







ソファに座って死体の後始末をその道の専門業者・・・・に頼んだ後、俺はボッーとしていた。

妙に瞼が重く閉じてしまいそうだ、あっ、そう言えば昨日は寝て無かったな……


「終わったよー、空君。」

ドアを勢い良くバンッと開けアリスが出て来る。

この適当な感じを見るに上手く治療はいったのであろう。


「大丈夫そうか?」


「そうねー、ありとあらゆる手を尽くして薬物を抜いてみたけど少し体内に残ったわ。

後遺症とかは気にする必要は無いけど、暫くは絶対に安静ね!」

マスクとゴム手袋を外しアリスはフウッと一息つく。

汗をかなり流しているようで着ていた白衣がうっすらと透けて黒色の下着が見えていた。


「流石だな……」


「まあね! ちょっと汗を流してくるわね、その間にあの子の手でも握ってあげたら?」

アリスが悪戯と少しの本気がまじったような複雑な笑みを浮かべて俺に言う。


「……人殺しの手をか?」

ああ、自分は今どんな表情をしてるのだろうか。

何とも言えない気持ち悪い物が胸の中を駆け巡る。


「あの子にとっては違うでしょ、命の恩人よ空君は。

……風呂入ってくるわね。」

そう言うとアリスは二階にある風呂にスタスタと歩いていった。


「命の恩人か……」

どんな人間を殺そうと自分は所詮は人殺し、誰かの手を握る資格なんて俺にあるのだろうか。


治療部屋に入ると少女は診療台とは別にあるベッドで静かに眠っていた。呼吸は落ち着いており、顔の表情も随分と楽そうだった。


「……綺麗な顔をしてるな、あの豚野郎が狙う訳だ。」

ギシッと木製の古い椅子に座り少女の様子を眺める。

その時に少女の色白で小さな手がチラッと視界に入る。

ちょっとでも手を伸ばせば届く距離だ、だが俺にその資格は……

急に強烈な睡魔に襲われ、意識が朦朧とする、流石に寝ずに活動していたので眠い。

瞼がゆっくりと閉じていき、視界が遮断される。





________________






「ふぅ、サッパリした。さてと、あの二人の様子を見に行くか!」

風呂から上がったアリスはその綺麗でつやがある金髪を雑に乾かして、ボロい階段をゆっくりと音を立てないように降りてゆく。

風呂から上がった彼女はどこか妙な色気があった、下品な色気ではなくて洗練された美しい色気が。

階段をゆっくりと降りた彼女はこれまたゆっくりと治療部屋のドアを開けようとする


(さてさて、どうなっているかな? 空君は素直じゃないからなあ~。)

そんな事を思いながら彼女はドアを開ける。

ドアを開けた先では二人ともに静かにスッー、スッーと小さな寝息を立てながら寝ていた。


「あらら、空君も寝ちゃてたかあ~。」

目を細め苦笑いするアリスの目にふと、一つの情報が飛び込んでくる。


「……何だ、大丈夫じゃん。」

殺し屋と少女、気がつけば二人は寝たまま手を繋いでいた。

血と欲にまみれた醜い世界、そんな中でも確かに殺し屋と少女は繋がっていた。














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