「彼女」の笑顔と「彼」の涙
友人にお題を出されて書きました。
お題がなにか考えてみてください。
月日がたつのは早いものですねぇ。
庭の鉄棒を眺めながら隣の「彼」に話しかけます。
そうそう、覚えていますか?逆上がり事件。
今思えば事件と言うほどでもないですけど、その頃の私達にとっては事件でしたよねぇ。
背中を撫でる心地よい感触に目を細めながら話します。
あの日、
「友達はみんな逆上がりできるのに、僕だけできないんだ」
って朝から晩まで泣きながら練習して、季節外れの熱中症にかかって、お医者さんにしかられましたねぇ。
そのときはピカピカだった鉄棒も今では錆びてしまいました。
私もこの頃足腰が弱くなったみたいです。
そろそろお迎えが来ますねぇ。
あらあら、泣かないでくださいよ。
あなたには笑顔が似合います。
泣き出してしまった「彼」の目から涙がポロポロとこぼれ落ちます。
ほら、お迎えが来ましたよ。
きれいなものですねぇ。
あなたの見えている世界がやっと分かりましたよ。
きれいな色です。
あなたが大好きですよ。
あなたは一人ではありません。
まだ若いのだから、幸せになってくださいね。
だんだんと背中を撫でる「彼」の手の感覚がつかめなくなってきました。
本当にもうおしまいみたいです。
悔いのない人生でした。
視界が白くなりました。
「彼」の顔がぼやけます。
最後は笑って別れましょう。
「ありがとう」
「彼」の驚きで彩られた涙に濡れた目を最後に世界から音が消え、色が消え、匂いがなくなりました。
それでは、
また会える日まで、さようなら。
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母親が連れてきたことで、俺は「彼女」に出会った。
始めのうちは人見知りしてなかなか打ち解けれなかった。
でも、一度遊んだら、そこからは兄弟同然の仲になった。
一緒に寝て、一緒に遊んで、一緒にご飯を食べて、
何から何まで一緒だった。
本当に楽しかったんだ。
学校で帰りが遅くなっても「彼女」は寝ないで待っていてくれた。
俺が悩みを打ち明けられるのも「彼女」だけだった。
いつもいつも黙って聞いていてくれたんだ。
俺が怪我をしたりするとすごく慌てていたっけ。
そうそう、逆上がり事件を覚えてるか?
「彼女」の背中を撫でながら心のなかで語りかける。
あの時は大変だった。
友達全員ができる逆上がりができなくて、悔し涙を流しながら朝から晩まで練習して、季節外れの熱中症にかかったんだよな。
お医者さんに怒れちまった。
…今となってはいい思い出だよ。
なあ、だから、また思い出をたくさん作ろう?
だんだんと「彼女」の体から力が抜けていく。
そんなことを認められるはずがなく、
必死に「彼女」の体をさする。
大丈夫、約束したんだから。
一人にしないって。
大丈夫。
ずっと一緒にいるんだ。
だから、目を閉じないで、開けて。
ポタポタと俺の涙が「彼女」の背中に落ちる。
嫌だ、
そんな声出さないで、
おいていかないで
一人にしないで
「ありがとう」
「彼女」が言った。
話した。
あり得ない。
驚きに見開いた俺の目から涙があふれでる。
その言葉を最後に、「彼女」は二度と目を開けることがなかった。
「彼女」をお揃いで買った毛布に包む。
「彼女」の匂いが染み付いている毛布。
また、涙が出てきた。
覚悟していたはずだった。
わかっていたはずだった。
「兎」の寿命は短いって。
でも、泣いたら「彼女」が悲しむ。
だから、
…だから、
「また会える日まで、さようなら」
笑顔でいよう…。
つたない文章ですが、読んでいただきありがとうございました。
お題は「兎、毛布、鉄棒」
です。




