3.黄昏に話は斜めに進む
警戒しつつ、立ったまま肩と手の筋肉をほぐしていく。
痩せ型でコートを着た人影は、近づくと人では無かった、かすかな機械音。オートマタという奴か。これは拳法使いとは相性が悪い。鉄板を素手で殴ったら拳の方が負ける。関節技も効くかどうか怪しい。いきなり得意技の優位性を封じられた気分だ。
だが、うちの流派は中国拳法の一派であるが、実は拳はほとんど使わない。投技、関節技はもちろん、試合なら即効で反則をとられるえげつない技も普通に習う。別に秘術扱いでもなんでもなく、やばげな技をほいほい教えてしまうトンデモ流派。なので、やりようはある。
と、戦うのが前提になってるあたり、老人として寝ていた時代には考えられない。若返ったパワー感で高揚。復活直後のピッコロさん状態になってる気がする。
というわけで、まず相手の足を崩す。左手を横にして体のやや前に出し、右手のひらもやや横にして前に。三体式の構えでないのは、私の基本スタイルが正面からの打撃ではなく投げだからだ。足を入れ替えつつフェイント気味に右に回り込み、さらに足と手を入れ替えて後ろに。別に神速でも瞬歩でもないが、相手からは一瞬だけ消えたように見える歩法で回り込む。
金属をいきなり蹴って足を傷めたくないので、靴底を相手の膝の後ろにあてる感じ、つまり膝かっくんを狙う。スリムな体型なので、あっさり決まり。相手は後ろにのけぞる。
ここで様子見はしない。やったかはフラグなので。倒したら追い打ちをかけて、トドメを指すのがうちの流派の基本。相手は金属なのでつま先の蹴りは危険。靴の裏で体重をかけて踏みつけ、さらにブルース・リー気分で顔を歪めつつ、追い込みの強い踏み抜きでグリグリする。
すると、破砕音がして。ファンファーレが鳴り響き。コインが数枚飛び出した。え、スチームパンクだと思っていたのに。狩猟系なの?
突っ込みたいが、相手はすでに沈黙。とりあえずお金が手に入ったので良しとしよう。