いつか君と笑いあった日
独特な音が響くこの部屋に来る度に君が言うんだ。
「ごめんね」 「私のせいだ」
そう言って君は僕の所に来ては、泣いて。
気の済むまで泣いたら、僕の手を握ってお話をしてくれるね。
「今日は、天気雨が降っているの。陽の光が反射して、キラキラしてるよ」
窓が小さいこの部屋では、あんまり見れないけど。
きっと、綺麗なんだろうな。
君と一緒に見れたら、どんなに素敵だろうか。
春の桜の下で、僕から告白したね。
夏には花火を見ながら、手を繋いで。
秋は色んな落ち葉に囲まれて、たくさんデートして。
冬の雪の日、初めてキスをした。
いつも一緒にいて、いっぱい笑って、たくさん喧嘩して、喧嘩した分だけ仲直りして、また笑いあって。
そんな日々は、突然終わってしまった。
違うよ、君のせいじゃないよ、って言ってあげたくても、もう僕の声は君の耳に届かない。
震える君を抱きしめてあげたくても、泣いている君の涙を吹いてあげたくても、もう僕の腕は君の顔に届かない。
君のそばに行きたくても、もう僕の足は君のいる場所に届かない。
僕の身体に繋がれた、無機質なコードが、それを嘲笑うかのように、まざまざと見せつけてくるんだ。
そのコードが繋がれた、同じ音を繰り返す機械は、君が安心する音。僕が出来ることはないけど、これが動いていることを確認すると、君は泣いてるような笑顔になる。
本当は、いつか見た、あの眩しい笑顔が見たいのだけれど、それはもう叶わないらしい。
唐突に、同じ音を繰り返す機械の、音が変わった。
君は顔色を変えて、誰かを呼びに行こうとする。
まって、いかないで。
言葉には出来なかったけど、どうやら奇跡というのは起きたようで。
あれだけ動かなかった僕の身体は、頑張ってくれたみたいだ。
ようやく自分の意志で触れた君の手を、強く握り、もう何も映さなくなった両の目で、しっかりと君を見て。
少しでも、君に伝わるように。
『ありがとう。君のことを、愛しているよ』