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「オマエも一応国民の事とか考えてんだなーって思っただけだよ」

「これは……」


思わず眉をしかめ神妙な顔つきになるユトナとロゼルタ。

だが、それも無理は無いだろう。


声のする方へと駆け出して行った2人が訪れた先に飛び込んできた光景は、あまりに衝撃的だったから。

2人がやってきたのは花街でも特に人気の少ない裏通り。

狭い道が入り組んでおり、土地勘のある者でなければ簡単に迷ってしまうだろう。


現場は騒然となっており、彼ら以外にも大勢の野次馬が一体何事かと集まってきていた。

誰かが争ったような形跡、そして倒れ込み手当を受けている人。

怪我をしたのは娼婦と同行していた客の男で、何事かと駆け付けた他の娼婦が心配そうに2人を介抱していた。


「つーか何の騒ぎだよコレ?」


「とりあえず、話を聞いた方が早そうですね」


訳が分からず鳩が豆鉄砲食らったような顔をぶらさげるユトナとは対照的に、冷静さを保ったまま淡々と現場にいる人々に聞き込みをし情報を得ていくロゼルタ。

粗方の情報を収集したところで、未だ唖然としているユトナに声をかけた。


「どうやら強盗のようですね。娼婦と客の男性はこの裏路地を歩いていた所、突如背後から襲われ金目のものを奪われたそうです」


「はぁ!? 何だよそれ舐めた真似しやがって! で、犯人は見つかったのかよ?」


「いいえ。背後から襲われ一方的に叩きのめされた為、相手の顔は見ていないそうです。当然、犯人も何時までも現場をうろつく訳も無いですからね」


ふぅ、と小さく溜息を零しながら淡々と得た情報を話すロゼルタに対し、元々喧嘩っ早い上に正義感も強いユトナはまるで瞬間湯沸かし器のように一瞬にして激昂する。


「だったらとっとと犯人見つけてぶちのめしてやらぁ!」


「何故貴方はそんなに短絡的なのですか…。まずは状況をもっと把握せねばなりません。現状だけでは情報が少なすぎる」


「じゃあどーすんだよ?」


「もっと情報を集めなくては。手間はかかりますが聞き込みするのが一番情報を得られるでしょうからね」


ぐぬぬ、と呻くユトナに対し、腕を組んだまま淡々とそう返すロゼルタはいつになく冷静だ。

すると、彼の返答にユトナはあからさまに面倒臭そうに眉をしかめて項垂れる。


「うへぇ…オレ、そういうの一番苦手なんだよな~」


「でしょうね。貴方は理屈より感情が前に出るタイプでしょうから」


「ぬぅ…さりげなくオレの事バカにしてねーか?」


「別に。私は事実を申し上げたまでです」


「だからそれがバカにしてるんだっつーの。…で、どーすんだよ?」


「何としてでも事件を解明し犯人を捕らえます。国民が安全且つ安心して暮らせる国…それを提供するのも王家の使命だと考えていますから」


きっぱりとそう言い切るロゼルタに対し、ユトナと言えば鳩が豆鉄砲食らったような、信じられないと言った顔つきで口を半開きにするばかり。

…と、ユトナの表情に気づいたのか、訝しげに眉をしかめるロゼルタ。


「…何間抜け面してるんですか」


「なっ、誰が間抜け面だよシツレーだな! オマエも一応国民の事とか考えてんだなーって思っただけだよ。初めてちょっと王子っぽく見えたっつーか、花街ふらついて遊んでるだけの馬鹿王子じゃねーんだなーって」


「…今、さりげなく褒めるどころか貶していませんでしたか? 日頃の腹いせか何かですか?」


「ち、ちげーよ大体事実だろ!」


冷ややかな視線を注ぐロゼルタに対し、慌てて弁解にもならない弁解を口にするユトナ。

ふぅ、と小さく溜息を零し気を取り直せば、ロゼルタはこう切り出した。


「兎も角、暫く私は此処に留まり調査するつもりです。勿論、城にも時折は戻りますが」


「そっか、じゃあオレも…」


「……、いえ。貴方は城に戻って下さい。私に付き合う必要は無いです」


「え……?」


青天の霹靂。ロゼルタの口から放たれた言葉はユトナの予想を遥かに凌駕するもので。

その為か、ユトナは声を出すのも忘れてその場に呆然とするばかり。

しかし、ロゼルタと言えば何故彼女がそんな反応を示すのか皆目見当がつかない、といった表情を浮かべる。


「先程の貴方の不機嫌の原因は、私に付き合わされていたからでしょう? ですから、これ以上貴方を巻き込む訳にはいきません。これで、貴方の望んでいる騎士の任務に戻れるでしょうし」


「はぁ? 何だよそれ、勝手に決めんなよ!? 別にオレはそーいう訳じゃ…」


「……? でしたら何故あんなに不機嫌だったのです? 明白な理由を提示して頂かないと、私としても対応の仕様が無いのですが」


「そ、それは…」


そのまま口籠り、俯いてしまうユトナ。


──違う。違うそうじゃない。

それは分かっているのに、そうじゃないのに…けれどどうすれば良いのか分からない。


ロゼルタに振り回された事が不機嫌の理由ではない。それだけは、ユトナも何となく分かっていた。

けれど、その原因が何処にあるのか、どうロゼルタに伝えればいいのか分からずに心の中に巣食う苛立ちはどんどん膨らんでいくばかり。

勿論そんなユトナの内心などロゼルタが知る由もなく、どんどん2人の気持ちはすれ違って複雑に絡み合っていく。

拗れてしまった現状を打破する解決策など、今のユトナが見いだせる筈も無かった。


「…分かったよ。勝手にしやがれ!」


最早彼の傍に居る事が辛い。心に巣食う闇が膨れ上がっていつか爆発してしまいそうだったから。

これ以上拗れて取り返しがつかなくなってしまう前に。いっそこの場から逃げ出してしまおう。

居たたまれなくなったユトナは逃げるようにその場から立ち去ってしまった。


一方、その場に残されたロゼルタもまた、何処か表情は冴えないもので。

一瞬ぽっかりと心に穴が空いたように虚ろな眼差しをするものの、すぐさまいつもの表情に戻り聞き込みを始めた。


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