12話
深緑の森を紅葉が少しずつ、紅へと染めてゆく。
しかし、森に一番近い、神社から見てみると、まだ、緑が多かった。
落ち葉も、淋しそうに地に落ちて―…秋の始まりをも感じさせられた。
私の隣では、面を付けてるあなたが寝息をたててた。
静かな神社で―…
一定の呼吸と―…
面越しに見える横顔―…
あなたの細く、白い手が…微かに震えていた。
「―――……咲?」
細い指に、そっと自分指を当てる。
そして、手を握ってみた。
咲の手は、意外にも大きかった。
そして・・・
ひんやりと
冷たかった。
そのせいか、咲の手を触ってることを忘れ、いつの間にか歌まで歌っていた。
* * *
「――…もう、終わり?」
「咲…起きてたの??」
「あぁ、なんで…歌うのやめた??」
「止めたんじゃないわ。これで終わりなの」
「中途半端だ…」
「そうね、でも、良い歌よ」
「そういえば…」
「ん?」
「初めて会った時も、それ歌ってた気が…」
縁は瞳をつぶり、考えた。か、と思うと思い出したかのように、瞳を見開いた。
「そ、そうよ。歌ってたわ」
「ひひ、記憶力良い〜」
「え、でも、なんで??」
「何が??」
「…よく聞こえたわね」
そう、初めて会ったあの日…私とあなたの距離は、神社から鳥居までの距離と、そう変わらなかった。
だから、口ずさんだ歌は、鼻歌同様…小さなはずだったのだ。
「簡単に言えば、この神社の周りは…おれのテリトリー」
「テ、テリトリー?」
「そう…それに、縁が思ってる以上に、声は大きかった」
「え、うそ!!」
「ほら、いつも声が小さいから…こういう時、大きく聞こえるんだ」
私は、頬に手を当てた。
…恥ずかしい
そう思っていた矢先、咲はさらり、と言った。
「でも、綺麗な声だった…だから、歌を歌うのは止めないで…」
彼のその一言で、私の頬は赤くなった。
りんご色に染まった頬。
それを静めるのに、どれほどかかっただろう?