表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第1章 宇宙孤児の憂鬱
9/55

9.嵐の前

 天頂方向を上、標準銀河横断面を基準として地球方向を北とすれば、我々が最短距離を取る場合、メディニカ星系に東南東方向下側から侵入し、恒星メディニカの東側を通って、北西方向上側に抜けるという進路を選ばざるを得ない。しかし、現時点で恒星メディニカの重力場は東側に傾いており、重力影響域に入ってからの加速は、通常よりもエネルギーを消費する。したがって、メディニカ星系に侵入する前の時点で最大速度を得、ちょうど重力影響域に位置するメディニカ星系第1惑星を利用した増速スイングバイ(すでに推力があるのでパワードスイングバイか)を行い、重力影響域での減速を減らすとともに、一気に亜光速まで加速し小惑星帯に突入することになる。


 敵は、重力影響域まで計算していたわけだ。我々が亜光速で小惑星帯に突っ込んで来ることぐらいは誤差の範囲だろう。おそらく、小惑星帯を抜け切る直前に300隻から500隻が密集隊形でルートをふさぐ形で待ち伏せているに違いない。これへの対策は、ある程度の質量を持った物体を亜光速でぶつけ、穴をあけてそこを突破するかしかない。僕が戦術シミュレーションでマリアの機動艦隊を破った手法である。バカの一つ覚えのような気がするが、戦略用兵器が搭載されていない軽戦闘艦にできる作戦は限られているのだ。


 しかし、ミミの分析によって一つの可能性が浮上してきた。僕は、マリアに報告をする。


「艦長、相談があるのですが」

「あら、プライベート通信なんて気が利くわね」

「傍聴の危険を防ぐためです。他意はありません。それよりも、仮想ディスプレイを見てください」

「つまらないわね。…ん?これ、どういうこと?」

「私のPAIは、ご説明した通り特殊なものです。自分でもどのようなプログラミング理論に基づいて設計されているのか全貌は分かっていません。そして、私のPAIは、様々なオプションを持っています。その一つが、生命探査機能です。調べた結果は信じがたいですが、あの敵艦隊には人間は1人しか乗っていない」

「信じられないわ」

「ええ。ただ、マリア先輩がおっしゃってたではありませんか。我が軍の精鋭にもこれほどの動きはできないと」

「うーん、なるほどね。複数の人間の行動限界を破ることができたのは、単数の人間が動かしているからということね。納得はしたくないけど」

「おそらく。原理は分かりませんが、敵は一人で艦隊を動かすシステムを持っているようです」

「で、これを私に見せたのは、何か意図があってのものでしょう?」

「理解が早くて助かります。実は、試したいことがあるんです。先ほどの作戦には支障を来たさないと思うので、許可を願おうと思いまして。」

「ええ、許可するわ。」

「ええ!?まだ、内容をお教えしていませんが」

「ただし、内容を教える以外にも条件があるわ」

「な、何でしょう。奴隷になるのは無理ですよ」

「そんなこと言わないわよ。心外だわ」

かつて言ったことあるから懸念しているのだ。心外なのは僕の方である。

「条件はね……」


 マリアから出された条件は、意外なものだった。別に、条件として出さなくてもいつもマリアが僕に無理やりしていることだ。まあ、いずれにせよ生き残った後の話である。


「巨大質量兵器、用意できました。まさか目の前で、ショーン君が想像した兵器を見れるとは思いませんでしたわ。って、プライベート通信中だったんですのね。またまた、お熱い事で」

ベルタの報告がディスプレイ上に現れる。

「また邪推です、先輩」

「あら、でもマリアの嬉しそうな表情を見れば、そう推察しても致し方のないことですわ。ね、マリア?」

「う、うるさいぞ、ベルタ。…さて、そろそろ、メディニカ星系に突入するか」

ベルタは、声こそ出していないが、腹を抱えて笑っていた。


――――――――――――――――――――――――――


 航行はいたって順調に進む。順調だ。順調に敵の罠にはまっていっているのだ。もちろん、敵の罠にはまらなければ、勝利も望めない。虎穴に入らずんば、虎児を得ずである。ちなみに、これは養母が言った言葉ではない。


『ところでさ、ミミ』

『何ですか、マスター』

『ミミなら、あの敵艦隊がやっていた動きができるかな』

『ミミ、一人で動かすんですか?それぞれの艦にミミの指示を受け取るレシーバーがあれば、できる思うよ、マスター』

『そうか、偉いね、ミミは。』

『えへへ』

『じゃあ、あの敵艦隊に乗っていた一人が、攻撃をする瞬間とか、攻撃方法とかパルスから読み取れるのかな?』

『うーん…初めてなら無理だと思うけど、練習すればできるようになると思うよ』

『ミミは、ガンバリ屋さんだからね』

『うん!マスター、偉い?』

『偉い。偉い。』


 なるほど、ミミならできる。そして、ミミには敵の電磁パルスが見えた。ということは、警戒しておいてもいいだろう。


「艦長」

「なあに?ショーン」

「できる限り、作戦のこととか、攻撃のことを考えない、ということはできますか?」

「その必要があるなら、するわよ」


 ミミができて敵ができないという保証はない。ミミは視覚で電磁パルスをとらえることができる。攻撃のタイミングや、もしかしたらそれ以上のことを読み取られるかもしれない。


「ええ、未知の敵ですから警戒しておこうと思います。今回、艦長は号令なしでも構いませんか?」

「構わないわよ」

「え?『撃て!』とか言えないんですよ?いいんですか?」

「ショーン、あなた、私のこと誤解してるわね」

あ、また獰猛な猛禽類のような表情だ。あとで、付きまとわれて色々と言われることが決まったようだ。本当に、口は災いのもとだ。


『ということで、ミミ。タイミングとかすべて任せるけど、構わない?』

『大丈夫だよ、マスター。ミミに任せておいて!』


 艦は、第1惑星を利用したスイングバイで加速し、小惑星帯に向かう。亜光速航行に入るとき、僕ら宇宙孤児にはあまり違和感がないが、惑星出身者の心身には極めて負担になると聞く。しかし、マリアもベルタも表向きは平気そうに見えた。ベルタは、たおやかな笑みを浮かべている。こんな時は、絶対心の中で、人を罵倒しているに違いない。マリアは、ニヤニヤしたり、時折頬を赤く染めてポーッとしたりしているが、何を考えているのだろう。


 そうこうしているうちに、我が艦と商船団は運命の小惑星帯に突入した。

拙いお話を読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ