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宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第2章 二つの反乱
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A-15.メディット星系政府

 メディット星系政府は、比較的新しい国家である。


 現在、惑星連盟の中心となっている最初の5星系にしても、現生人類が地球という惑星に25万年以上住み着いていたことに比べれば、あっという間に惑星ヴァレンヌから別の惑星へと移住が行われた。それは、今のように居住可能惑星を効率的に地球化する技術と経験が不足していたので、居住可能域のある惑星を近隣星系に探して移住する方が優先された結果ということになる。


 最初期に移住が完了した5つの星系は、それぞれの主惑星でコミュニティ政府が形成されていたが、ヴァレンヌに到着した者の子孫という同胞意識もあり、「同盟」という緩やかな、政治経済的繋がりを保った。その後、同盟の各星系がそれぞれに植民惑星開発を行うことになる。植民惑星開発は、今でこそ人口爆発の解決策であるが、当時は、居住惑星の組成が地球と異なるために必要な鉱物採取を目的とするなど主星を支えるために細々と行われていた。しかし、その間に、星系間の航行手段や通信技術、惑星開発技術の著しい進歩により、植民開発の範囲と規模が大きくなっていった。その結果、植民惑星に独自のコミュニティが形成されるようになったのをきっかけに、国家は泡沫のように湧いては消えていった。植民惑星として開発が始まり、やがて植民惑星出身者による国家が樹立されたもの。民間企業によって中間星系に作られたコミュニティがそのまま国家と名乗るなんてこともあった。いずれにせよ、影響を受ける星系政府の駆け引きによって、多くの国家が誕生し、統合されていった。


 メディット星系政府は、その中でも特殊な経緯で生まれている。


 V.C.842年、ヴァレンシア星系政府の大物政治家だったレイン・バーナードが突然、多くの支持者を引き連れて移民を敢行し、ヴァレンシアと袂を別ったのである。その理由について彼は全くコメントを残さなかったので、後に様々な憶測が流れた。今では権力闘争に敗れたというのが定説になっているが、その定説を支えている証拠が、一同僚議員の日記の1行に過ぎないのだから、歴史上のミステリーとして今でも人気がある。バーナード一派は、辺境星系の開発を主唱していたので、彼自身が、その仕事に余生を投じたというところが真実なのかもしれない。


 レイン・バーナードは、今はメディナ・ポリスと呼ばれるメディット星系第三惑星に降り立ち、メディット星系政府を樹立した。メディット星系政府は、惑星開発を始める前に、国家の樹立が宣言され、実際に国家として存続できた極めて稀な例なのである。そして、辺境という地理的要素によって、他星系政府の干渉を受けないで惑星開発が行われ、成功したという意味でも極めて珍しい。


 珍しいと言えば、国家体制もそうである。レイン・バーナードというカリスマ政治家が樹立した国家であるからか、外部からの干渉がなかったからか、あるいは、国家の急成長が求められたからか、大統領制という名を借りた第一執政官と呼ばれる元首による独裁制であり、しかも珍しいことに元首の地位は、世襲なのである。それ故、惑星連盟では、メディット星系政府のことを揶揄して「王国」などと呼ぶことがある。


 つまり、ショーンが相対する画面の向こうにいる少年は、メディット王国の王子ということになる。ショーンは、この少年が真実を言っているのか、判断をつけかねた。確かに、公式発表では、前第一執政官には子が二人いる。上の王女は数年前に行方不明となり大きなニュースになった。そして、歳の離れた王子がいる。画面に映る少年が、その王子だとして、こんな場所に自ら乗り込んでくる必要があるだろうか。


「……誠に失礼なことを申し上げますが、俄かには信じがたいことです。少なくとも、私には、あなたがアレクシス・バーナード殿下であるという確証はありません。何か、身分を証明するものをお持ちでないのでしょうか?」

「残念ながら、持っていません」


 シュンとなる少年。伏せた目には涙がたまっているのだろうか。


「では、幾つか質問にお答えいただけますか?」


 少年がパッと顔を上げ、何度もうなずく。別に信用したわけではないのに、この喜びようである。現状を打開しなければならないのはショーンも同じなのだ。果たさなければならないミッションもある。


「まず、あなたがこの宇宙刑務所に来た経緯をお話しください」


 ショーンが促すと、少年は、意を決したように、ショーンを見つめて語り始めた。


「ボクは、現第一執政官に命を狙われています」



 ――前第一執政官ケリー・バーナードの死は突然だった。通常、バーナード家の男性は比較的長生きで、ケリーには持病もなかったにもかかわらず死が訪れた。急性心不全という診断が示すように、原因不明の死であった。これまで、嫡男長子が世襲してきた第一執政官の地位は、少年が形式的に継ぎ、成人するまでは摂政を置くことになるかと思われた。しかし、それに反対した者がいた。現第一執政官のチャールズ・バーナード、少年の父方叔父であった。


 そもそも彼ら兄弟の確執は、ケリーが惑星連盟への所属を決定したところから決定的になった。そもそもチャールズは、それまでケリーの執政を補佐しており、これまでのバーナード家でもなかったほどの仲の良い兄弟だった。チャールズは、惑星連盟への所属に猛烈に反対し、ケリーとの激論の末、失意のうちに政治を離れていった。チャールズは宇宙警備隊の名誉職に甘んじるようになった。


 チャールズは、今が国難の時であり、元首である第一執政官が子どもではこれを乗り切れない。臨時であれ、経験豊かな元首が必要と主張した。確かに、独立を保ちながら惑星連盟に所属したケリーの手腕は高く評価されていたが、主権制限の問題はのど元に突き付けられている状況にあり、チャールズの主張を支配層だけでなく、国民の多くが支持したのである。惑星連盟がメディット星系政府の政治体制に好意的でなかったことやチャールズが自ら、アレクシスが、ケリーが元首に就任した年齢である28歳になるまでの25年間という期限を示したことも大きかった。


 ところが、第一執政官に就任してからチャールズが執心したのは、ケリーの執政の成果をことごとく打ち消すことだった――


「急な方針転換で国政は混乱しました。叔父は、父が重用した者たちを抵抗勢力と断じて排除し、自分に忠実な者を重用するようになりました。為政者としては、それ自体間違っていないのだと思いますが、叔父に追従した勢力には、混乱に乗じて自らの利益だけを考える連中がいて、彼らが国政に関与するようになったのです。ボクの姉が失踪したのは、そのような中です」


「なるほど」


 少年の話は、ショーン自身が記憶しているメディットの動きと異ならなかった。しかし、ここまでは公表されているものである。


「姉は、実は行方不明になったのではありません。ここに、いるのです」

「……宇宙刑務所に?」

「はい。姉は科学者で、政府の科学研究機関の一部門で働いていました。2年前のある日、姉が突然帰宅してボクに言ったのです。『これが開けられるようになったら、迎えに来て』と。そして、プロテクトのかかった手紙を渡されました。ボクはそれをこの前ようやく開けることができました。そこには、重大な機密を知ってしまったこと、それゆえ一時的に身を隠し、後に別人として宇宙刑務所に収容されるよう父の支持者に手配したこと、そしてボクが迎えに来る場合の手順などが書いてありました」

「ほう…… しかし、さっき、あなたは『師匠を助けたい』と言ったはずですが」

「はい。ボクの学問の師匠は、姉だったのです」

「どういうことですか?」

「ボクに、父が生前、学問全般を教授する師を就けたわけですが、実は一度も会ったことがなかったのです。通信ですべてを行っていました。手紙で暴露されたときには、ボク自身が天地がひっくり返るほどびっくりしました。確かに、通信教授の割には、ボクの性格や生活ぶりを知っている風でした。姉がここに入ってからは、父の支持者が特別刑務官の協力者を通じて、師匠、つまり姉とのやり取りを可能にしていました」

「……その、あなたの師匠の名前は?」

「メリル・サンディと言います」


 それは、ショーンがここに潜入して保護する対象の名前だった。


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