A-13.引っ掛からざるを得ない見え透いた罠
通常の居住用惑星よりも二回りほど小さな天体が浮かんでいる。補給基地のように武装こそされていないが、内部居住型の人工構造物らしく外側は特殊鋼に覆われており、一般的な戦略級兵器の砲撃にも耐えられるくらい頑強な作りであることが見て取れる。
『あの惑星、なんか変だよ』
ミミがショーンの脳内に話しかける。
『どう変なのかな? あれが人工惑星ってことは知ってるんだよね』
『うん。それは知ってるんだけど、何かね、しゅうじんじゃない人がいる場所はプロテクトがかかってるの』
『プロテクト? それって、ミミが調べても調べられないってことか』
『うん。ごめんね、マスター』
『いや。それだけ分かれば十分だよ。警戒しないといけないみたいだね。……ミミ』
『なあに? マスター』
『今回は、ミミはエリーザについていてもらえない?』
『えー、いやだよー』
『たぶんね、ミミと僕が一緒にいるとまずいことになりそうなんだよ。ミドリが言ってたけど、電磁パルスのプロテクトができるのは、今のところミドリの同胞しかいないよね?』
『うん』
『この間の電磁パルス攻撃からすれば、メディットにミドリの同胞がいる可能性が高い。向こうも、こちらが電磁パルスを使えることを知っている。だから、メディットの罠と考えれば、僕を徹底的に調べるだろう。そうなれば、僕がミミと一緒にいるとミミを奪われる可能性が高い』
『……うん』
『別に特別なことはしなくてもいい。ただ、ローラやエリーザの身に危険があったら、ミミの力を使っていいよ。ミドリにもらったツールもあるし』
『……マスター、気をつけてね』
『ありがと。ミミ』
ミミの本体はショーンがいつも身につけている端末にあるが、今回はショーンの端末を艦に隠しておき、ミミのバックアップが入った移動型端末をエリーザに持たせることにしたのである。ショーンは、エリーザに事情を説明しPAI内蔵型の疎通器具を手渡す。形はピアスと変わらない。
「付き合ってもいない女にピアスをプレゼントするなんて、なんてきざったらしいと思いましたが、そういうことなら」
エリーザはそう言って受け取る。その前置きは必要だったのだろうかとショーンは疑問に思った。
*
ショーンは、宇宙刑務所長あてに通信をつなぐ。着艦許可を得るためである。
『刑務所から通信です。音声のみです』
ミミが仕事モードで告げる。
「取りあえず、つなげてくれる?」
音声のみの通信は、戦場での指示以外で使われることはめったにない。
『ようこそ宇宙刑務所へ、宇宙一の英雄と銀河一のアイドル殿。音声のみで失礼する。刑務所内でトラブルがあって、機械類にも損傷が出たので、映像が出せないのだ。』
女性の肉声に聞こえるが、微妙に機械的に加工されたような印象を受ける。
「いえいえ、たいへんだったのですね。支援要請に応えてまいりました。着艦許可をいただきたいのですが」
『もちろん許可を出そう。しかし、お忙しいお二人にご足労願っておいて申し訳ないのだが、残念ながら慰問を受けられる状況にない。早急に物資をいただけないだろうか』
「それは構いませんが、こちらも上への報告がありますので、トラブルの詳細な事情をお聞かせ願えませんか?」
『それはやぶさかではないが、一般人にお聞かせする話ではないので……』
「なるほど。では、物資の引渡しの際に、私が直接お聞きしましょう」
『そうしてもらえると、助かる。では、着艦許可書をお送りする』
ミミが調べても、許可書に偽造や改ざんの可能性はなかった。しかし、もし、これが何らかの罠だとすれば、ローラやエリーザとショーンとを切り離すことが相手の目的だろう。どのような事態が起こっているにせよ、一般人であるローラの安全を確保するのが最優先事項である。ショーンは、自分が半日を超えて連絡なく帰艦しなければ、ローラの安全確保を最優先してここを離脱し、メディット方面分艦隊に援助要請するようエリーザに依頼する。エリーザは緊張の走った表情で黙って肯いた。
ショーンは、刑務所に対して、ローラと随行員については上陸させないことを告げると、了解の旨返信があった。
*
着艦後、ショーンの指示で刑務官らが物資を降ろす。刑務官らは手慣れている様子でスムーズに物資を運び込んでいった。ショーンには、彼らが少なくとも刑務官の振りをしている囚人とは思えなかった。その表情からも、刑務所で深刻なトラブルが起こったようには見えない。雑談がてら、ショーンは刑務官に何があったのか聞いてみる。彼らも詳細は知らないとのことであった。
一通りの作業が終了し、作業の中心者の先導で、司令室へと案内される。その途中、先導していた刑務官が、突然振りむき、ショーンの顔に向けて霧のようなものを噴射するのを見た。ショーンの意識はそこで途切れた。




