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宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第2章 二つの反乱
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B-10.作戦会議という名の戦術講義

「さて、フリーハンドを与えられたけど、どうしようかしら?」

マリアは、ジョエルとトレンスに問いかける。

「中尉、ひょっとして策がないのですか?」

ジョエルは、驚いた様子で質問する。

「たくさんあるから困ってるのよ。まず、一般的な策を聞きたいの」


 トレンスがジョエルと同じことを聞かなかったのは、マリアの立てる作戦の絶大な効果を知っているからであった。その点でトレンスはマリアに全幅の信頼を置いていた。マリアが、二人に作戦を立てさせるのも意図があってのこととトレンスは考えた。


「まず、目標を設定すべきですな」

トレンスは言う。おじいちゃん准尉と呼ばれているが、声はとても低くて渋い。トレンスが部下に慕われるポイントでもある。

「それなら、敵を一網打尽にして完膚なきまでに叩きのめすということでしょう」

ジョエルが言う。トレンスと対照的に軽やかな声である。美声と言っても良い。イケメンで美声で細マッチョ、モテないはずがない。かといって軽薄そうに見えないのがジョエルのすごさである。


 マリアは、黙って二人に先を促す。


「敵を一か所に集めて叩くということになりますな。とすれば、補給基地の守旧派どもを誘い出す手段が必要ですか…」

トレンスは顎を撫でながら言う。これで白髪の顎髭がついていたら、見事に囲碁を打つおじいちゃんに見える。

「誘い出すには甘い蜜でしょう」

語る仕草が絵になるというのはこういうことなのだろう。ジョエルは、マリアの視線を捕えようと一瞬マリアを見る。マリアは目をつむって聞いていた。見られていないことに軽いショックを受けるジョエル。

「彼らにとっての甘い蜜は、儲け話と性的なサービスですな。……蜜ではなく身の安全という手もありますまいか?」

「身の安全ですか…… 彼らのアキレス腱は、やっぱりメディット政府高官との関係でしょうね」

「でしょうな。儲け話に性的なサービス、そしてメディット政府高官との関係が暴かれる心配を取り除くこと、これらを以て奴らを誘い出す……」


「方針としては、スタンダードね。奇手でないから動きやすい。その方針で行くとして、スタンダードだからこそ、成功させるための工夫が必要になるけど、その点はどうするの?」

ジョエルとトレンスのやり取りに割って入るマリア。

「餌がうまそうであれば、少々怪しくても飛びついてくるでしょう」とジョエル。

「垂涎の餌ですか…… 中尉、頼まれていただけますか?」

トレンスはマリアを見る。


「ええ。じゃあ、餌を使って誘い出した後はどうするの?」


 マリアは、自分が囮になることについては、あっさりと同意する。マリアの興味はその先にあるようだ。


「……ここの部隊と、中尉が率いてきた部隊で以て奴らの身柄を拘束するということになりましょうな」

トレンスが答える。

「そうですね。中枢を押えてしまえば、後は中尉の持つ権限で分艦隊を押さえれるでしょう」


 マリアは、目を閉じて黙っている。


「……なるほど。うん、分かったわ」


 マリアは、立ちあがって司令室にいるメンバーを見まわした。


「私は、二人の能力を疑ってないわ。現に、今二人が出した策は間違いなく実現可能で効果も見込める。私が囮になれば、守旧派は食いついてくるでしょうね。そうすれば容易く守旧派を拘束できる」


 ジョエルとトレンスは、肯く。


「ただ、正直なところ、守旧派のみであれば、そんなまどろっこしいことをしなくても拘束することはおろか根絶やしにすることも簡単にできるのよ。問題は、二人が作戦目標を間違えているというところなの。二人が同時に間違えるところに、今回、私たちが為さねばならないことの難しさがあると思うわ」

マリアは、一旦言葉を区切る。

「……と申しますと、メディット星系政府が本当の敵だとおっしゃるわけですな」

トレンスがマリアに応じる。

「少し違うわね。マジェッタ星系からメディット星系政府の影響力を排除することが現時点で最優先の目標よ。しかも迅速に効果的にそれを成し遂げなければいけない」


 マリアには言い淀みも言い間違えもなかった。通常、誰しも言いにくいことを言わねばならないときには、言い淀むものだ。マリアは、ここ一番で確信的に語ることの効果を心得ていた。


「……なるほど。そうなると守旧派だけでなく、マジェッタ星系にいるメディット星系政府の息のかかった者も一つ所に集める必要があるわけですね。でも、それは……」

ジョエルが言う。

「そう、不可能よ。だから、私は影響力を排除するという言い方をしたの。無力化すると言ってもいいかしらね」

「……どのようになされるおつもりでしょうか?」

トレンスが聞く。

「そろそろ、種明かしをしましょうか」


 さながら戦術の講義をするように、マリアは自分の策を説く。聞き入るジョエルとトレンスの表情の変化は傍から見ればさぞ面白かっただろう。一緒に聞いているはずのトレンスの後ろに立つ軍曹たちがそれほど驚いていないことを考えれば、マリアの意図を理解している二人は優秀と言ってよかった。


「まあ、ざっとこんな感じね。言うまでもないことだけど、この策は二人の協力がなければ絶対に成功しない。二人とも、私に命を預けてもらえるかしら?」


 ジョエルとトレンスは、マリアのオーラに気圧されたかのように無言で頷いた。


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