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宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第1章 宇宙孤児の憂鬱
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4.養母の教えは正しかった。

 僕は、心の中でミミに頼むよと言い、艦橋の1段上にある艦長席に向かった。それにしても、マリアがミミとの会話に気づくはずはないのに不思議なことだと思う。そういえば、と僕はマリアが変に鋭かったことを思い出した。


――――――――――――――――――――――――――


 工廠科出身者でも、士官である限り前線に立つことはある。宇宙大学校の基本単位を取らせるための建前だけではなく現実にあるのだ。だから,基本訓練及び戦闘実習は工廠生でも単位取得基準が厳しい。無料で大学に通わせてもらっているのだから義務はあって当然だと思う。


 戦闘実習の中に戦術シミュレーションという授業がある。ゲーム好きも多い工廠生にとっては比較的ありがたい授業である。マリアを初めて認識したのは、その授業だった。この科目の単位取得認定テストは、教官の代わりに戦術科の先輩が敵役をする。教官としては、戦術研究科生の適性を見る機会でもあり、だいたい後輩はコテンパンにやられる。これが工廠科生の通る道だった。僕たちの学年もその例に漏れず、成績優秀者でさえ、完膚なきまでに叩き伏せられており、時間切れの引き分けさえ、まれだった。


 テストでは,当然ながら成績優秀者同士を当てるものである。可もなく不可もない戦績の僕は、同じくらいの成績の先輩と戦う予定であり、僕は負けるまでの時間をいかに引き伸ばそうかと考えていた。しかし、なぜか僕の対戦相手はマリアだった。あとで聞いた話だが、マリアの戦績は無敗。ぶっちぎりの成績優秀者だったらしい。教官は、たいそう気の毒そうに「瞬時に負けても単位はやるから。」と僕に告げた。僕はあまり気にするでもなく、「はあ、ありがとうございます」と表向きのお礼を述べた。でも、質問は決してすべきではなかったのだ。好奇心は猫をも殺すと養母が常々言っていたじゃないか。


「でも、どうしてですか?」

士官を目指すものにとって理由を問うてはならないということを僕は分かっていなかった。教官は唖然とした様子で僕を見ていた。教官がなんと説明しようかと迷うそぶりでいると、僕の対戦相手が声を上げた。

「私のことをまさか知らないなんて言わないでしょう?」

自信に満ちた立ち居振舞い。スタイルの良さはトップモデル並みなんだろうと思った。

「私は工廠科なもので。申し訳ありませんが、存じ上げません。お名前を教えていただけますか?」

僕は、本当に知らなかったのだ。それがたぶんマリアの気にくわなかっのだと思う。

「あんた……いい度胸ね」

この先輩の名前を聞くのに手続が要るはずはない。何がこの人を不機嫌にさせたのか。なるほど、人の名前を聞くときは、まず自分から名乗るべきと言いたいらしい。

「これは失礼しました。私は、工廠科2年のショーン・ヒルガと申します」

「そんなことは知ってるわよ! ……たく,戦術科3年のマリーベル・フォーゲルトよ」

どうやら、選択肢を間違えたようだ。女性はよく分からない。でも,その名字には覚えがあった。

「フォーゲルト先輩? ……あ、突撃と速攻が得意な人でしたっけ」

「そ、そうよ。」

ちょっとびっくりしたのだろうか、名前を知られていなかった怒りが続いているのかちょっと顔が赤い。

「それは、失礼しました。先輩の突撃、速攻の見事さにアーカイブをいくつかほぞん、いや見たことがあったんです。でも、お会いしたのは初めてですよね?」

「ほ、誉めても無駄よ。でも、ま,まあ私のアーカイブを見るなんて見所あるわね」

なんか急に見所のあるやつに昇格したらしい。

「いえ、どうしたらあの速攻を防げるかと考えていたんですけど、工廠科の僕にはさっぱり」

お世辞のきく人だと思った僕は、さらに持ち上げようとした。

「私のアーカイブを見たなら私の実力が分かるでしょう? 何でも言うことを聞くって約束するなら、手を抜いてあげても良いわよ」

言ってる意味が分からない。ただのテストで何で我が身の自由を賭けないといけないのか。評価不能の敗けなら追試を受ければいいのだ。しかも、瞬時に負けても単位はもらえるとお墨付きをもらったのだ。

「せっかくの申し出ですが、遠慮しておきます。私はこの授業に人生賭けてないですから。別に手を抜いていただいても、結果に変わりないと思いますので」

「勝負から逃げるわけね、男らしくない」

何で挑発されているのだろう。まるで素行不良の輩に絡まれた気分がする。この手の人の行動原理は理解できない。

「勝負と仰いましたが、ご自分が相当に有利な条件のもとにいらっしゃるのですから、逃げることになんのためらいも生まれません」

「……じ、じゃあ、ハンディを付けてあげるわよ。構わないでしょうか、教官?」

教官は僕の方を気の毒そうに見て頷いた。テストとは言え、たかだか授業なのに何でこんなことになるのか。ただ、この人は、意味不明の行動原理でどうしても僕と賭け勝負がしたいようで、断れば別の機会にまた絡まれそうな気がする。

「ハンディをもらう代わりに、負けたら僕はどうなるんです?」

「私が勝ったら、生まれてきたことを後悔するくらいに辱しめてやるわ」

僕は、助けを求めて教官を見た。教官は目をそらした。

(責任者が逃げやがった。)

たかがテストに僕の人としての権利がかかる。そんな事態になった。口は災いの元だと養母が言っていたのを思い出した。


 結局、僕が貰ったハンディは、積載物資の変更と通常よりも10分多い準備時間、そしてPAIの使用だった。そもそも、このテストは初めから工廠科生にハンディが与えられている。1個艦隊同士の艦隊戦なのだが、戦術科の先輩は、標準的な編成の艦隊を指揮することになる。一方、工廠科生は、編成自由、戦場の決定権もある。しかも、戦術科の先輩は勝利が必要だが、我々は艦隊として戦闘不能に追い込まれなければいいのだ。それだけのハンディがあってもなお、工廠科生は負けてしまう。


 僕が、マリアの模擬戦のアーカイブを保存(PAIに保存することは基本的にできない仕様になっているが、ミミは人間と同じように「見る」ことで覚えることが可能なのだ。)したのは、ミミの思考訓練のためだった。別に戦術シミュレーションでいい得点をとろうと思ったからではない。もし、そうなら僕はもっと良い戦績を修めている。ミミは、戦術シミュレーションが得意,というか好きなようだった。今では1度誰かの戦術アーカイブ見せると、僕が考えるよりも優秀な対応策が数種類返ってくる。それ故、僕にはそれなりの勝算があった。こうして僕は、人としての尊厳の危機を回避すべく、ミミと共に望まぬ戦いに身を投じることにした。


「準備時間中、だれか女性としゃべっていなかった?」

マリアが仮想ディスプレイ越しに聞いてきた。

「まさか。フォーゲルト先輩もそこにいらっしゃったでしょう?」

「…そうね。それよりも準備はできたのかしら?」

「ええ。戦場はアルワナ小惑星域でお願いします」

「聞いたことない場所ね…まあいいわ。それにしても、君、余裕そうに見えるわね」

「半分あきらめで、半分後悔してるんですよ。お手柔らかにお願いします」

「それはダメね。今日から君は私の奴隷になることが決まっているんだから」

僕はため息を一つつき、教官を見た。教官は頷いて開始を告げた。


「は? 何これ?!」

マリアが変な声を出す。まあ、そうだろう。艦隊の編成があり得ないのだ。

「テーマは宇宙海賊です」

僕は、この編成のコンセプトを告げた。

拙いお話を読んでいただきありがとうございました。

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