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宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第2章 二つの反乱
33/55

B-5.重要参考人

 マリアは、司令部を後にするとそのまま補給基地にある軍病院を訪れていた。先ほど少佐が挙げた現場を離脱した3人の1人である第三惑星で最前線指揮官だったジョエル・ボルロー少尉に面会するためである。


 総合受付では、案の定、面会を拒否された。容体が安定しないとかそんな理由である。マリアは、そんなことでは引き下がらず、病棟の管理責任者を呼び出させ、部隊長命令を示す。

 

「今、私を面会させるか、後日憲兵に病棟内を捜索されるか、どちらがお好みかしら?」


 憲兵、つまり軍警察も令状主義である。許可なり、命令なりを文書で示す必要がある。しかし、警察と違うのは、裁判所など外部機関のチェックを必要としないことである。特に特殊任務に当たるときには、その長に必要な権限が与えられ、令状も上司の事後チェックのみである。改めて考えると、軍権というのは、非常に強大なのだ。


 病棟の事務長らしき人物は額に汗を浮かべ悩んだ挙句、最終的に前者を選んだ。


――――――――――


 ボルロー少尉は、病棟の最上階近くに入院していた。最上階近くというのは、外部との接触が制限されるエリアである。VIP用と言えば聞こえがいいが、本当のVIPルームは最上階にあるので、ここは体の良い拘禁エリアと言える。

 

 担当看護師と思われる女性がマリアに付いてきた。マリアは担当看護師に告げる。


「今から30分間、この部屋は私が借り受ける。病院関係者には遠慮してもらう」

「……分かりました。相手はこん睡状態の病人です。無茶をなさらぬようお願いします」

「分かっている。そこに待機しているのだな?」

「ええ、不測の事態があればお呼びください」


 マリアは入室する。ボルローは、点滴を受けながらベッドに横たわっている。金色の髪の毛を短く刈り込んだ軍人然とした精悍な男という印象である。記録では、帰投して院内で事情聴取を受けている途中に倒れ、以降こん睡状態になっている。つまり、帰投するまでは起きていたことになる。


 マリアはボルローを観察する。今は、薬物によって眠らされている可能性が高い。おそらく点滴に仕込まれていたのだろう。点滴を見ると、何の変哲もない栄養剤の袋である。おそらく取り換えたばかりなのだろう。ほとんど点滴が減っていない。病院も、さすがに急いで睡眠剤を混入した点滴を取り換えたと思われる。


「ボルロー少尉」


 マリアは呼びかけるが反応はない。肩をゆすったり、頬を叩いてみたりしたが、反応を示さない。マリアは、最終手段に出ることにした。


 マリアは、ボルローをボコボコに殴ったのではなく、疎通器具コミュニケーターを耳に取り付けた。ショーンとミミがやっているように、黙って会話ができる器具である。マリアは、腕のPAIを操作し、ミドリに連絡をつなぐ。


『ミドリ、ミドリ』

『……なんだ、年増女ではないか』

『誰が年増よ。まだ20歳を過ぎたばかりよ…… ってそんなことはいいのよ』

『さらっとサバを読みよって…何か困った事態が起きたのか?』

『ええ。力を貸してほしいのよ』

『力を貸すのはやぶさかではないが……』

『何よ? 条件があるの?』

『取引をしようではないか?』

『あんた、こっちが切迫した状況なのをいいことに…… まあいいわ。で、条件は何?』

『私にショーン・ヒルガの一日を自由にする権利を与えるというのはどうだ』

『あんた、私が任官した後、半年も一緒に暮らしてたじゃない』

『ショーンにちょっかいをかけようとするとタイミングを見計らったようにお主やベルタから連絡があったのに何を言っておる。盗聴器を仕込んでいたのはバレバレだったぞ』

『な、何のことを言っているのかしら?』

『まあよい。それで条件を飲むのか?』

『……分かったわよ。条件を飲むわよ』

『ならばよい。それで相談は何だ?』

『薬物で眠らされている人を起こす手段はある?』

『お主の剛腕でたたき起せばいいのではないか?』

『あんたねえ、私は非力な女の子よ』

『誰が非力か。今のは冗談だ。眠れる姫を起こすのは、王子様のキスと決まっておろう』

『だから、どっちかっていえば私が姫よ!』

『……まあ、冗談は置いておいて、お主に持たせた通信器具に、それくらいのことは仕込んであるぞ。ショーンに頼まれたからな』

『え? 何で今まで言ってくれなかったのよ!』

『何か癪だったからに決まっておる』

『何よそれ!』

『冗談だ。ショーンに言われたのだ。余り便利な道具を使うとボロが出るし、マリアが自力で何とかできない事態などそうそうないだろうと、な』

『……そう。ショーンがね』

『感激しているところ悪いが、使い方をPAIに送っておく。私がお主とあの毒舌嬢を眠らせたのと同じ原理だ』

『ああ、あれどうやったの? あ! 私、それ謝罪してもらってないわよ』

『質問か文句かどっちかにせよ。強い視覚刺激によって、脳電磁パルスに変化を起こさせるというものだ。出力によっては、薬物影響化にある脳をリセットすることぐらいはできる』

『なにそのチート機能』

『何を言っておる。チート機能だったら私がもっと使っておるわ。使える機会などそうそうない。そもそも効果を出すためには、相手の至近距離にいなければ意味がないし、別にこちらの思い通り動かせるわけでもない。せいぜい眠らせたりはできるがな』

『あんた仮想ディスプレイ越しにやったじゃない』

『あれは、仮想ディスプレイの輝度を利用しただけだ』

『……そう言えば、ショーンにはかけなかったの?』

『かからなかったんだ。ショーンにはミミのプロテクトがある』

『そうか……』

『お主の考えていることが手に取るように分かるぞ。……ショーンを眠らせて自由を束縛しても、あやつはそんな事態に至っても鈍感さを発揮するぞ』

『そうね。……って何? その経験談的な話し方は?』

『ハハハ、そう言えば……』

『話変えんじゃないわよ』

『いや、もう一つ報告があってな』

『何よ?』

『私はソフィア・フォーゲルト議員に雇われることになった』

『…………はい?!』

『まあ、この話は後日ゆっくりとしよう。時間がないのであろ?』

『そ、そうね。今度じっくり聞かせてもらうわ。ショーンの自由を奪った話もね』

『忘れてなかったか』

『何を狙ってんのよ。……じゃあ、ありがとうね』

『なに、お安い御用だ』


 コミュニケーターによる会話が瞬間的なものだとしても、時間を無駄にするわけにはいかない。残り時間はあと20分である。マリアは、仮想ディスプレイをボルローの文字通り目と鼻の先に展開し、PAIを操作する。


「出力を最大に、と。起きなさい! 重要参考人」


 マリアがキーをタッチすると、ディスプレイから一瞬真っ白な光があふれて消える。


 ボルローが顔をしかめ、ゆっくりと目を開いた。


「おはよう。私の声が聞こえるかしら?お目覚めはいかが?ジョエル・ボルロー少尉」

「ここは…… 天国か?」

「残念ながら、軍病院の拘禁エリアの病室よ」

「あ、ああ…… そうか。いや、あなたが天使だと思ったのだ」

ジョエルは頭を振りながら言う。

「頭大丈夫かしら…… 私は、ついさっきまで第二惑星メルビルで最前線指揮官をしていた、マリーベル・フォーゲルト中尉よ。今は、憲兵隊特別部隊長をしているけど」

「ああ、あなたが。噂はかねがね」

律義に頭を下げるジョエル。

「時間がないから単刀直入に言うわ。ボルロー少尉、あなたが目撃した反乱について現場引き当て捜査をするから同行しなさい」

「……分かりました。あなたのためなら喜んでお役に立ちましょう。私の天使(モン・アンジェ)

爽やか細マッチョ青年らしく、ジョエルは微笑んだ。


 マリアは、おそらく数多くの女性を口説き落としてきた微笑みに対して、よほどひどい拷問でも受けたのだろうかと思っただけだった。

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