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宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第2章 二つの反乱
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A-2.謎が全く解けない

 ショーンは考えていた。


 彼ら特別犯罪者が、なぜ集団を作ることができているのかを。


―――――――――――


 宇宙刑務所は、コンセプトが明確である。それは社会との完全なる隔絶、その一点である。


 外宇宙への移住を人類が決めた時、当然、犯罪をどう扱うかが大きな問題となった。地球世代において脳電磁科学と行動科学の発展により、矯正不可能な犯罪者の範囲はずいぶんと狭められ、自由刑(いわゆる自由を制限する刑罰)よりも人格刑(矯正プログラムによって人格を変化、あるいは制限する刑罰)への移行が既になされていたという。


 特に、外宇宙への移住に際しては、罪を犯したからと言って死をもって購うことは、限られた人的資源という観点から不経済であると考えられた。ゆえに、「徹底した矯正」に重きを置かれることとなった。もちろん、犯罪の原因を除去したからと言って、被害感情がなくなるわけではない。特に個人に対する罪は、応報感情が極めて強い。それでも、惑星移住に成功した後でも人格刑が支持されているのは、同一人による再犯がほとんど0になるという予防効果と、プログラムの強度によっては人間らしさ自体を失ってしまうという副作用による補償効果がある故だろう。もちろん、矯正プログラム自体が非人道的であるという議論は未だに存在するが。


 そのような人格破壊に近い矯正プログラムによっても、矯正不可能な犯罪者がごく稀に存在する。彼らに対して、死刑しかないという議論は今でもある。しかし、それが議論されるたびに、誰が執行するのかという問題が持ち上がる。一度死神の鎌を手放してしまった人類がそれを再び手にするのは、思ったよりも抵抗感が強かったのだ。経済的側面から考えれば、執行する側のリスクとその補償という問題があり、執行を機械によって自動化する方法も考えられたが、人間としての最低限の尊厳に抵触することにも抵抗感が強かった。そして、妥協案として考えられたのが究極の自由刑としての追放だった。


 当時の惑星連盟の刑事政策委員がこんな台詞を残している。


「積極的に殺すのはご免だが、彼らが死ぬのは勝手だ」


 こうして宇宙刑務所という小さな惑星くらいある巨大な人工構造物が、統計上、この先100年間は、1万人を越えることがないと予測される極少数の犯罪者のために用意された。現在の収容人員は937人である。手術によって上腕部と鎖骨下に埋め込まれたチップにより居場所が常に管理され、「居所」にあるセンサーによっても管理されている。


 彼らは、人工構造物上に、それぞれの居所が与えられる。居所では、最低限の衣食住が完備されている。ボタン1つで注文の品が届く。至れり尽くせりである。しかし、彼らが一定期間居所を離れれば、再度居所に戻ってももう要求は聞き届けられない。他人の居所で要求しても同じである。また、自分の居所に他者を入れても、要求は聞き届けられない。


 構造物の広さ、制御室による監視により、犯罪者同士が出会うことは計算上不可能であり、よしんば出会うことができたとしても、後は仲良く死を待つのみだ。つまり、惑星社会からだけでなく、あらゆる社会的関係から隔絶させることが意図されているのだ。


―――――――――


(しかし、彼らはこのシステムを掻い潜って、現に社会集団を形成しているらしい。この謎を解かない限りは、根本的な解決にならないだろう)


 ショーンはそんな予測を立てた。


 宇宙刑務所を制御する機能は、惑星で言えば核にあたる部分にある。ここに管理者として、特別刑務官が100人余り配属されている。通常の犯罪であれば、刑罰の執行は各星系国家に任されている。ただ、この宇宙刑務所のみが連盟の所管であり、各星系国家から持ち回りで3年の任期で刑務官を派遣させている。


 オリオールについて、地下を下りていく。迷宮のように作られているのは、侵入者対策だろう。


「リーダーってのは、どんな人なのでしょう?」

ショーンはオリオールと話したくなどなかったが、情報収集のために口を開く。

「ヘッヘ、偉大なお人さ」

「あんたみたいな殺人兵器を従えているんだから、そうなのかもしれませんね」

「ヒッヒッヒ、そのとおりさ。さすがは英雄様だな、我らのリーダーは、俺たちを地獄の淵から救ってくださったんだ。人殺しに狂った俺でさえ、ここでは自殺するかしないか、毎日考えてたんだ。そんなとき、我らがリーダーは颯爽と現れてくださった」

「……なるほど。力で従えられているわけではないようですね」

「フハッ、いや、俺なんか何で勝負しても絶対に勝てねえって思ってるよ」

「はあ、そうですか。すごい人なんですねえ」


 オリオールは笑いが止まらくなった様子だった。ショーンは、ますますわけが分からなくなった。オリオールが狂っていることは間違いない。ただ、人間的に狂っているにしても、論理が危うい奴という印象はなかったのだが。


 ヒッヒッヒ、と妙なひき笑いをしながらオリオールは迷う様子もなく、最下層を目指していった。やがて、大きなピロティに出た。


「まっすぐ行った部屋が、リーダーがいらっしゃる部屋だ」

「わかりました。オリオールさんは?」

「俺はここからは、案内できねえんだ。あとはあんた一人で行ってくれ」

「はあ、分かりました。案内ありがとうございました」

「フハハハハ! あんた、ハハ、良いな。フハハハハ!」


 オリオールは大笑いしながら、来た道を戻って行った。


 どうやら、この先は中央制御室らしい。制御室に彼らのリーダーがいるということは、やはり、宇宙刑務所の機能は犯罪者に乗っ取られているということだろう。


 ショーンは覚悟を決め、中央制御室の扉を開いた。

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