A-1.宇宙刑務所《スペース・ジェイル》
第二章は、幕間から1年半が経過した時点から開始します。その間の出来事は、話が進む中で埋まっていくように進めていきます。
ショーン・ヒルガは、人生最大のピンチに陥っていた。
敵艦隊に囲まれたのでも、敵兵と対峙しているわけでもない。ましてや、ここは宇宙空間ではない。マリアがショーンの鈍感さについに切れて「あなたを殺して私も死ぬ!」と言ってナイフを突き付けられている場面でもない。
そう。ショーンは、軟禁されていた。
それだけなら、別にどうということはない。ミミを使って脱出することなどたやすい。
問題は、ありとあらゆる装着型端末を奪われていることだ。さすがに、こうされてはミミとの交信は不可能である。しかも、ここは宇宙刑務所である。矯正不可能な犯罪者と政治犯を文字どおり島流しにする場所だ。
ショーンが矯正不可能な罪を犯したとか、政府転覆を計画したとかそういうことではなかった。罠にはまったのだ。それはもう見事に。ショーンが、自分の人質としての価値を正確に認識していれば、このような状況は避けられたに違いない。人間の行動傾向はそう簡単に矯正できるものではない。特に、いざというときに、その人の癖というのは現れるものである。
ショーンは、それを今痛感していた。後悔してもどうしようもないことは分かっていても、人間、軟禁されれば来し方を振り返るものだ。そこに無念さがあれば、どうしても後悔してしまう。
ドアがノックされた。
(食事かな?早くないか?)
ショーンは不思議に思ったが、この部屋には時計もないので、時間的感覚さえ分からなくなっているのかもしれない。
「ご機嫌いかがかな?宇宙孤児の英雄殿」
顔を出したのは、卵型の顔にニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべるガリガリに痩せた男だった。
「よくはないですね。ただ、何もない部屋に閉じ込められていると、人間どんなことを考えるのかを実験できてうれしいですけどね。そういうあなたはご機嫌いかがですか?ミッシェル・オリオールさん」
男は、左の口許を釣り上げて笑う。笑い声も不快な男だ。
「ヒッヒッヒ、英雄殿が俺なんかの名前を覚えてくれていて嬉しいね」
オリオールは、V.C.開始以降、史上最悪のテロリストだ。彼のテロによって命を落とした者は億を数えるのではないかと言われる。星系外追放処分になった彼は、この宇宙刑務所に収容されていた。
「稀代の大量殺人兵器が私なんかに何の用でしょう?」
「ヒッヒッヒ、リーダーがあんたを呼んでる。英雄に仕事を与えなければいけないんだとさ」
「おとなしく人質になっているだけではダメなんですかね?」
「フハハハ!ヒッヒッヒ。そりゃあダメだ。あんたを呼んでこなきゃ俺が殺される」
「それは良い! ……と私が思って抵抗したら、どうなるんです?」
オリオールは、笑いをやめてイカれた目をショーンに向けた。
「ここの管理人どもに、一人ひとり違うやり方で死んでもらうことになるさ」
「それはまずいですね。……分かりました。案内願いましょう」
ショーンは、オリオールと話しながら打開策を考えていたが、取りあえずリーダーに会うことが先決だと考えた。情報を得なければ、対応策も考えられない。オリオールを殴って逃げることはできるが、それではこの件は片付かないだろう。いずれにせよ、現時点では手持ちのカードが少なすぎた。
ショーンは、オリオールについて部屋を出た。この部屋に入ってから1日半が経過していた。




