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宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第1章 宇宙孤児の憂鬱
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2.幼女と巨乳美女(ただし、声のみ)

『負け戦ですね』

ミミが僕に語りかける。脳内で。10歳くらいの女の子の声。


 僕はPAIのマニアかもしれないが、別に精神は病んでいない。ミミの発話は、耳に取り付けた疎通器具コミュニケーターによるものだ。PAIと脳との間で相互に電気信号を伝えることができる。歴史的にはバーチャルリアリティの発達に合わせて、このような脳電磁器具も開発されてきた。軍でも「訓練」や「尋問」にバーチャルリアリティが活用されているらしい。あと僕はロリコンでも、ペドフィリアでもない。ミミの成長を人間の成長に合わせているだけである。何て言うか、育ててる実感が湧くじゃないか。


『その通りだね、ミミ。でも、僕らの任務は終わってないし、僕はまだ死にたくないなあ』

僕は、心の中で話す。

『んーと、じゃあ、戦術目標の第一順位をマスターの生存、第二順位を任務の遂行に切り替えますか?』

『ちょっと待って、ミミ。第一順位は、僕と同僚と船団の人たちの生存にして』

『はい。マスター!』

元気の良い声。素直な娘に育ってくれているようだ。

『じゃあ、頼むよ』


 この会話は時間にすれば一瞬、1秒にも満たない。実際には電気信号のやり取りなのだから当然といえば当然である。これが,僕が組んだPAI―ミミの一形態だ。


「負け戦ね」

ミミとの対話が終わるや、それを見計らったように僕を戦場に連れてきた張本人の声がする。音声のみのプライベート通信。何で任務中に艦長がプライベート通信をするのかと至極真っ当な怒りを覚える。


 マリーベル・フォーゲルト、惑星連盟軍宇宙大学校戦術研究科4年の先輩。通称マリア。金髪碧眼の超絶美人、成績良し、スタイル良し、家柄良しとの評判である。ただ,性格がひん曲がりすぎて、一回転しているからまっすぐに見えるというこの世の不思議を、僕はこの人に垣間見る。本人には言わないが。


「ええ。護衛艦隊の損傷率は2割をまもなく越えるでしょう。一方で敵艦隊にはほとんど損傷を与えられていません。戦意も高いと思われます」

意趣返しのつもりで、艦長席の仮想ディスプレイに映っているであろう当たり前の情報を報告する。敵は、艦隊という名に恥じない陣容である。今は攻撃が少し薄くなっているが,紡錘陣に組み替えるつもりだろう。攻撃しながら陣形を組み替えるのは相当の練度が必要なはずだ。下手にやると味方を攻撃しかねない。

「……『宇宙海賊』なんてネーミングは間違いね。今の宇宙軍の精鋭だって、かの有名なクラフト中将の艦隊だってこれほどの動きはできないわ」

僕の答えが気に入らなかったのか、少しムッとした様子でマリアは言う。

―確かに、マリアの言うとおりだろう。『宇宙海賊』は惑星連盟による呼称に過ぎない。商船団や輸送船など民間の船がこの宙域で行方不明になる事件が頻発したのでマスコミがそう呼び始め、惑星連盟も追従的にそのように呼称するようになっただけだ。僕らは、というか惑星連盟そのものが、敵を見誤っていたのだ。


 僕は、マリアにそそのかされて彼女の任官前実地訓練のサポート要員としてこの戦場にいる。そもそも、実地訓練というのは戦闘地域や危険宙域に赴きはするが、そこで中難易度の任務を行うものである。マリアのチームが引き受けたのは、この宇宙海賊の跋扈する航路を通行する商船団を護衛するという任務である。正直,商船団もわざわざこんな宙域を通らなくてもと思う。ただ、護衛艦隊が商船団を護衛するので,マリアのチームがやるのは、苦情聞き、医療提供などのほかは護衛艦隊との連絡調整役で、事務作業効率と精神力が試される任務のはずだった。


 僕は抜き差しならぬ理由で断り切れず、「まあ簡単な任務だし、私がいるからチョロいものよ」とのマリアの言葉を少しは信じてついてきたのだ。そして、ふたを開けてみれば,僕たちが停泊した補給基地をあんな練度の高い1個艦隊に急襲されたのである。そして、その報告をした僕に見せたマリアの態度を僕は一生忘れないと思う。マリアは「やっぱり来たわね」と満面の笑みで言ったのである。


「どうすればいいと思う?」

表情は見えないが、ニヤニヤ笑っている姿が容易に想像できた。

「艦長、私にどうすればいいかを語る資格はありません。軽戦闘艦の技術士官扱いですので。その相談は、まずは副長に、その上で教官にすべきでしょう」

僕は,あくまで任務中の態度を崩さない。崩してたまるか。

「もう、意地悪しないでよ。プライベート通信なんだからマリアって呼びなさいよ」

甘えた声を出すマリア。意地が悪いのはあんただと言いたいのをかろうじて我慢した。僕の堪忍袋は大きい。自分を褒めてあげたい。

「艦長、そもそも任務中にプライベート通信は「今回の契約書がここにあるんだけど、わすれちゃった?」」

僕は、マリアに付きまとわれるようになってから、数々の恥辱を受けてきた。今回、マリアのサポート要員としてついてきたのは、ついてくれば、単位認定があるなどという自分の利益を考えたのではなく、その恥辱の瞬間をカメラに収めたものを、全星系ネットワークの番組に投稿するとの脅迫に屈したことによる。そして、交わした契約書には、マリアの部下として振舞うという条項があった。任務なので、当然だが、マリアは部下を下僕と勘違いしているのではないかというくらい、ことあるごとに僕を頻繁に呼びつけていた。何というひどい話だろう。

「……分かりました」

僕は、ため息を一つついて無駄な抵抗をあきらめることにした。

拙いお話を読んでいただきありがとうございました。

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