16.戦乙女たち
読んでくださる方に心から感謝を込めて。
「ちょっと待ちなさい!」
今、出てこられるとややこしい人の声が聞こえる。
「なんか気がついたら面白い話をしてるじゃない。でも、ショーンを味方にしたいのなら私を通してもらおうかしら」
あぁ、やっぱりややこしい。いずれにせよ、マリアが交渉役になった場合、僕がフォローしなくてはならないことが山のように増えるのだ。
『ミミ、一応、マリア先輩の声も向こうに通訳してもらえる?』
『はい!マスター』
『あなたは、臨時の艦長。彼はその臨時の部下に過ぎない。どうしてあなたを通さなくてはいけない』
「それは……もちろん、私とショーンとが将来を誓い合った仲だからよ」
もちろん、嘘である。あるいはマリアの脳内での話である。
『…それは真実なのか?』
少女は僕に尋ねる。なんかこの娘、眼力強えぇ。真実かと聞かれれば、そうではないので、僕は首を横に振るしかない。マリアが後方で強烈なプレッシャーを以て僕をにらんでいるような気がする。いや、確実ににらんでいるので、僕はマリアのほうを見ない。絶対に見るものか。
『どうやら違うらしいが』
「……まったく、ショーンは照れ屋さんなんだから。」
マリアの脳内で、勝手な解釈がなされる。
「でも、あんたの言葉からすれば、ショーンの力を借りて、10年以内に我が軍をその強大な敵と戦えるようにするってことでしょう?」
『そうだ。彼の力があれば敵に勝てるかもしれない。貴様たちが最初所属していたあの小艦隊にできなかったことが、彼にはできた。現に私は銃口を突きつけられている。一方、我々は戦うことはできるが、圧倒的に数が足りない。敵に勝つには、純粋な戦力が不足しているのだ』
「そう。…なら、私の力も貸してあげるわ。」
『ほう、貴様にどんな力があるというのか』
「私なら、数年内に軍内の誰にも手が出せない独自の部署を作ることができる。実際、あんたのためじゃなく、そうするつもりでいたし。つまり、軍内にあんたたちに協力する集団の橋頭堡を作れるってことよ。それがなければ、我が軍を抜本的に改革して、強化することなんてできないわ。それとも何か非人道的な手段でも採るつもり?そんなことショーンは望まないわよ」
『む…そなたの言うことに一理あるな。しかし、それをどうやって実現するのだ?妄言なら誰でも吐けるぞ』
「私が現惑星連盟軍宇宙艦隊参謀総長の娘だからよ。訳あって母親の姓を名乗っているけどね。今の惑星連盟軍は、残念なことに家柄や派閥が物を言う世界なのよ。でも、この際利用できるものは利用すべきだし、私たちの世界が崩壊するのを黙って見ているのは私の性に合わないわ」
僕は、マリアの出自を既に知っていたが、マリアの口からそれを聞くのは初めてだった。
『なるほど、それなら合点がいく。…そなたにも協力をお願い申し上げる。非礼を許されよ』
「別に気にしてないわ。マリーベル・フォーゲルトよ。でも、ショーンは私のものだから手を出さないでね」
『キリエ・ミドリだ。しかし、あなたは法的にショーン・ヒルガの自由を束縛できない。無論、私の自由もだ』
「『ふふふ…』」
二人とも友好的な笑みを浮かべているが、そこに火花が散っているように見える。主に僕の身柄の自由に関してというのが納得できない。
「また、面白いことになってますのね」
ベルタがいつの間にか真後ろに立っていた。
「当事者である僕の意見は聞かずに、僕の自由に関する議論がなされるのには一々ツッコムのも疲れましたよ。って、先輩も、音もなく後ろに立つのはやめてください」
「暗殺術も乙女の嗜みですわ」
「どこの世界の乙女ですか」
「いずれにせよ、男の意見も聞かず、争ってばかりの女には魅力を感じないわよね。うん、そうよね」
「男の」から急に大きな声で言うベルタ。僕は何も言ってない。
「困ったことがあったら、いつでもお姉さんに言うのよ」
囁くベルタ。いつも以上にたおやかな笑みを浮かべ、優雅に去っていく。あの行動、絶対に自分が面白がりたいだけだ。
「ショーン」
『ショーン・ヒルガ』
マリアとミドリが同時に僕に呼びかけた。
「『あなたはどうしたい?』」
ベルタが隠れて腹を抱えて笑っているだろうと僕は思った。
拙いお話を読んでいただき、ありがとうございました。
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