14.検証に耐えられぬ仮説
その微笑みを見て、僕は我に返った。邪悪なもの、というのは言い過ぎかもしれないが、少なくとも異質なものをそこに見たのだ。
「確かにあなたの言う通りかもしれない。しかし、それはあくまで無限にある可能性の1つの答えでしかありません。断定するには情報が足りない。そして、断定するほどの証拠をあなたは出せない。」
『…どうしてそう思うのだ』
「出せるなら、既に証拠を出しているでしょう。あれだけ僕らがひっくり返るような宇宙世代の秘密をあっさりとばらして、説明は後からでした。それは確たる証拠があったからでしょう。その一方で、宇宙孤児の話は状況証拠と推論から結論を出そうとしている。それは推論の域をでないからではありませんか?」
『……』
少女は憮然した顔で黙り込んでいる。
「しかし、私が分からないのは、私なんかに揺さぶりをかけて、たとえ、私に惑星連盟に対する不信を抱かせても、あなたにとってどんなメリットがあるのかということです。」
『…分からないはずがなかろう。それは一種の謙遜か?そうでなければ、そこまで考えることができて、なぜわからない』
「うーん、…やはり、分かりません。自意識過剰でなければいいのですが、あなたが私を味方につけようとしていると考えても、私程度の人材など惑星連盟には掃いて捨てるほどいますし…」
『掃いて捨てるほどいるわけがなかろう!』
少女は叫んだ。怒りだろうか、プルプル震えている。
『軍務司であるこの私が、銃口を突き付けられるなどそうそうあってたまるか!宇宙に住まう者の剣と盾そのものである私が!何たる屈辱!』
駄々っ子のように地団太を踏んで叫ぶ少女。ああ、びっくりした。ぶつくさぶつくさ文句を言っている。目尻には涙が浮かんでいるようで、ちょっとかわいそうになってきた。さっきまでの冷静な交渉役はどこに行ったのか。「軍務司」とは何だろう?地位みたいなものか。確かに、艦隊を率いることができる少女だ、何らかの役に就いていておかしくない。
「いやいや、私は訳あって人と違う道具を使いますが、ただそれだけの、本当に普通の技術者志望の士官学校生なんです。そもそも、勝負は時の運と言うではないですか、お嬢さん」
何て呼べばいいのか分からず、「お嬢さん」と呼びかけた。何か、こう慰めたくなったのだ。女性、特に年下の女性に甘いのは僕の悪い癖なのかもしれない。しかし、もちろん僕はロリコンではない。
『お、お、おおお』
「?」
『お、お嬢さん?!』
「ああ、失礼でしたら謝罪します。なにぶん、そちらの文化は全く知りませんもので」
『そ、そ、そうか…私を呼ぶときは、ミドリと呼びなさい。キリエ・ミドリ。キリエがファミリーネームだ』
「はあ、ミドリ様ですね。私は、惑星連盟軍宇宙大学校工廠科の学生で今は、臨時で上級技術軍曹をしておりますショーン・ヒルガと申します。ヒルガがファミリーネームです。」
『そうか。私は軍務司、そちらで言う宇宙艦隊管区司令を務めている』
「……はい?」
かんくしれい?管区司令か……ってええ?!こんな僕よりも年下に見える少女が、惑星連盟では中将を以て充てる相当な軍幹部?!ちょっと、そっちはどうなってんの?年端もいかない子どもに戦争させるなんて、それって児童虐待?それとも、僕よりもはるかに年齢が上なのか?こんな疑問が湧いてない交ぜになって口に出た言葉は「はい?」の一言だった。
拙いお話を読んでいただき、ありがとうございます。