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宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第1章 宇宙孤児の憂鬱
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13.ミッシング・リンク

 別の進化を遂げた人間だとか、地球外由来の人間種だとか言われた方がまだ信じられる。この未知の存在が、我々の歴史に空いた大きな穴とも言うべき謎と関係があると言われても、僕の常識が納得することを阻んでいる。


『信じるか、信じないか迷っているような顔だな。是非もない。我々は、ここしばらくの間、あなた方の文化圏に生きる者の調査をしていた。だから、私はあなた方が語る宇宙世代の物語も、その後の歴史も、宇宙空間で子をなすタブーも、そして宇宙孤児の扱いも知っている』

「…海賊行為にしてはスマートなやり方だと思っていましたが、やはり目的はサンプリング調査だったんですね」

僕は無意識のうちに話をそらしてしまう。僕は言いようのないひどく恐ろしいことに出会ったような感覚に陥っていた。

『誤解のないように言っておくが、拷問や催眠誘導など、あなた方がやるような尋問などはしていない。我々は地球世代から続く、捕虜の扱いに関する規則を順守している。』

「別に私は、惑星連盟を代表してあなた方を非難する資格などありませんよ」

『しかし、心情的には別だろう。同胞をぞんざいに扱われてうれしく思う者はいないからな』

そういえば、この少女の話し方は、同時通訳しているミミが設定したものだろうか。見た目と口調がそぐわないことにいまさら気づく。

「なるほど。攫ったものを政府に通告せず捕虜扱いにしたことや、その捕虜の処遇に関してここで議論しても益のないことですので、保留しましょう。しかし、『自分は宇宙世代の子孫だ』と言われて『はい、そうですか』と言えるほど、私は想像力豊かな人生を送っておりませんので、簡単には受け入れられないことは確かです」


 そう、宇宙世代の問題は、僕の出自やこれまでの人生に関する前提であり、私とこの世界をつなぐ重要な物語なのだ。世界の関節を目の前の他人に外されるのは誰だって御免被るはずである。でも、僕はこの物語(フォークロア)に納得のいかないものを感じていたのも確かだった。それゆえ僕は、未知を既知に変えゆく興奮と恐怖との狭間で揺れ動いていた。


『私とあなたの時間にも限界がある。詳細な証拠は、通信機器に送る故、後からそれを確認されればよかろう。いずれにせよ宇宙世代の物語は作られたものだということだ。我々の祖先は、それなりの理由があってあなた方の祖先と袂を別ったのだ。』

「証拠とは、どのような?」

『移民船ヴァレンシアの全レコード』

 

 少女の言う証拠が本当なら、その話を信じるしかなくなるだろう。我々の主星にたどり着いた移民船がヴァレンシアであり、主星到着後、歴史の中でそのレコードはほとんどが失われたと言われる。もちろん、少女の言う証拠がねつ造されたものでないという100%の保証はない。しかし、全レコードを矛盾なく捏造するのはほとんど不可能なのだ。


 僕は深呼吸を1つした。…確かに、祖先が地球を旅立ったとき、既に人間が持つ科学技術の水準は現在と比してもそれほど遜色ないほどだった。少なくとも現在の我々の科学技術の基礎となる枠組みは既に出来上がっていた。これはほぼ間違いない。にも関わらず、宇宙世代が主惑星に到着する前にことごとく死滅してしまったというのは、論理的にはあり得ない話なのだ。そのような論理的矛盾を指摘されると、医学的問題や心理学的問題として片付けようとする人が多いが、それに従ったにしても論理の飛躍がありすぎる。とすれば、どこかで宇宙世代の子孫が生きていてもおかしくはない、可能性としては。これが論理的帰結だと僕自身は、科学者として、そう考える。


『あなた方には、我々の祖先の軌跡もあなた方の祖先のそれも確かめるすべはどこにもなかった。それゆえ、悲劇としての宇宙世代が物語として浸透していてもおかしくはない。しかし、これほど強固な前提、もっと言えば宗教的信念に近いレベルで信じられているのはどうしてか、あなたは考えたことはあるか?』

「……人間は根なし草にはなりたくないからですよ。だからこそ、自分のルーツに関する物語は、たとえそれが矛盾に満ちた神話でも守りたい。ただし…」

『ただし、それへのこだわりは外部からの脅威にさらされたときに最も先鋭的に表れる、ということだ。しかし、あなた方に外部からの脅威など、我々と接触するまで、いや、現時点でさえないと言ってもいい。その一方で、その矛盾した物語にこだわる多数の人々がいる』

「……何が言いたい」

『お分かりのはずだ。あなた方の文化圏に住まう者は意図的、戦略的にこの物語にこだわるよう、仕向けられてきた。内なる外部の脅威、あなたのような宇宙孤児という異端が存在することで』


それまで無表情だった少女が口元をゆがめてほほ笑んだ。

拙いお話を読んでいただき、ありがとうございます。

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