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宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第1章 宇宙孤児の憂鬱
11/55

11.明るい諦めの中で

「マリア先輩」

僕は、オペレーター席からマリアに呼びかけた。

「何?ショーン」

「あの時保留にしたお願い事を、今してもいいですか?」

マリアに勝利した際に、なんでもお願い事を一つ聞くと言われていたのだが、僕はそれを断り続けていた。人気絶頂のマリアに、あまつさえ、辛うじてとはいえ、戦術シミュレーションで勝利し、それに加えてそれを理由に何かをねだるなど、命がいくつあっても足りなかったに違いない。

「うーん…ダメよ。ちゃんと生き残って帰ってから聞くわ」

「…わかりました。」

「物分かりのいい子は好きよ。でも、こんなムードのないところで、プロポーズしなくてもいいじゃない?ベルタだっているのに」

「はい?」

マンガで言えば、僕は今デフォルメされた絵になっているところだろう。

「こんだけ一緒にいたものね、いくら鈍感なショーンでも私の魅力に気づかないわけがないわ。教官や軍の上層部と取引をして、連れてきたかいがあったわ。」

冗談かと思えば、そうではないらしい。得意の暴走独り言。視界の端でベルタが、腹を抱えて、指をさして大笑いしている。やめてください、先輩。とばっちりは僕に来るんですから。

「あの、先輩?」

「なあに、私のショーン」

ふんわりとした綿のボールを投げてよこすようなイメージの甘い声。いつの間にか、マリアの所有物になっている僕。しかも、さっきツッコミを忘れましたけど、僕が実地訓練についてきたのは、相当な特例ってことですか??それに、マリア先輩が取引っていう場合、だいたい脅しが込みになっているんですけど?

「いやいやいやいや。マリア先輩。ちょっと聞いてください!」

「ええ。聞いているわよ」

まるで聞いていない。絶対、脳内お花畑で絶賛お遊戯中だ。

「先輩、このままだと僕たちは帰れませんよ」

「あ…そうだった。ショーンの声を聞いたら、戦いのこと忘れちゃってたわ。」

ベルタはついに声に出して笑った。


―――――――――――――――――――――――


「敵がどのような言語、文化を持っているのか分からない限り、白旗を上げることすら危険です。」

僕はようやく説明にこぎつけた。


 僕は、艦長席にやってきた。ちょっと気まずそうにするマリア。僕だって気まずいですよ、全く。とはいえ、マリアは優秀な人である。すぐに軍人として思考を巡らせ始めた。


「ですから、今から敵との交渉を一任してもらえないかとお願いしたかったんです。」

「へ?そんなことに、私へのお願い事を使おうと思ったの?」

「ええ。本来、艦長がすべきことを、上級軍曹ごときが一任してもらうわけにはいかないでしょう」

「…ショーン、あなたは私が反対すると思ったわけね?」

凄まじいプレッシャーを感じる。怒っていらっしゃる?

「ショーン…」

地獄の底からの重低音のように僕には聞こえる。

「あとで、艦長室にいらっしゃい。教えてあげるわ」

「な、何をでしょう」

無言で僕を睨むマリア。怖い。目的語がないことが怖い。しかし、それも生き残ってからだ。ただ、生き残った上で、この世に生まれた後悔を知ることになるらしい。理不尽にもほどがある。


どっと疲れてオペレーター席に帰る。


『マスター』

『どうしたの?ミミ』

『ミミがあの年増から守ってあげる』

ああ、なんて優しい子に育ったのだろう。

『…たとえどんな手段を使っても』

黒い!黒いよ、ミミ!いつの間にそんな娘になったの?


 何か、敵に囲まれ銃を突きつけられている緊張状態のはずなのに、何でこうも緊張感がないのだろうか。こちらに打つ手がないゆえの、明るいあきらめ。これは、マリアやベルタの醸し出す雰囲気、つまりは仁徳だろう。暗く思いつめても、事態は打開できない。開き直る方がいい時は確かにある。


『マスター、敵から通信が来たよ』

『ちなみに、ミミにしか分からない方法で来たんだね?』

『うん。たぶん古代地球語だと思う』

僕は、古代地球語というのをよく知らないが、そのいくつかの単語はこの時代にも残っていると言われる。「ヘンタイ」ももしかするとそうなのかもしれない。

『そう。で、敵は何て言ってるの?』

『えーとね、おとなしく投降すれば、乗組員を捕虜として遇し、命は保証するって言ってる。回答期限は10分後だって』


「艦長、10分以内に投降するよう勧められていますが」

僕は、マリアに通信をする。

「Noと言いたいところだけど、何か手はある?」

「やってみたいことがあるのですが、構いませんか?」

「さっきも言ったとおりあなたに任せる。あなたのPAIにしかできないことがあるんでしょ?私は、あなたがやることなら私やベルタのためになるに違いないと思ってるの。……さっき、私本当にショックだったのよ。だから、ちゃんと言葉にしておくわね。私はあなたを全面的に信頼している。軍人としても、一人の人間としても、ね」

「…ありがとうございます」

僕は、この人の信頼に足るかとか、そういうことを考えたこともなかった。僕には、自分が宇宙孤児であり、どう足掻いたとしても差別される側なのだという自覚、いや、諦めがある。それは簡単にぬぐい去れるものではない。成長するにつれて有形無形の侮蔑の眼差しや手痛い裏切りに遭ってきたのだ。だからこそ、できる限り波風は立てないし、目立ちもしたくない。それが僕の行動原理だったと改めて思う。ただ、マリアやベルタには、そういう気遣いは要らなかった。そういう気遣いをさせないようにしてくれていたのだと思う。この人たちの前で、徐々に人間としての振る舞いを取り戻しながらも卑屈な行動原理をぬぐい去れない僕は、この人たちにはどのように映っていたのだろうか。この人たちの信頼に足らんとしてこなかったことは、この人たちに対する裏切りだったかもしれない。そんな思いがよぎる。

「私にお任せください。マリア先輩」

それは、僕がマリアやベルタを守ろうと決めた瞬間だった。


『ミミ、観測してた?』

『もちろんだよ。マスター』

『じゃあ…』

『うん、ミミにもできそうだよ』

『そうか!ミミは偉いなあ』

『えへへ、マスター、ミミ偉い?』

『うん、偉いよ。……じゃあ、始めようか』

『はい!マスター』


ふっと空気が凪いだ。次に高音域の耳鳴りがする。頭が痛む。僕は目を閉じる。音が安定する。

痛みが薄らぎ、ゆっくりと目を開けるとミミの声が聞こえた。


『マスター、敵艦隊の乗っ取り完了しました』


拙いお話を読んでいただきありがとうございました。

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