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宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第1章 宇宙孤児の憂鬱
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10.既知の遭遇―未知との遭遇

 我が艦の後ろに菱形陣形をとりながら4艚の商船が続いている。艦内から見れば、それは遅々とした歩みであるが、外から観測できるのであれば、一陣の風にしか見えないだろう。この小さな艦隊は既に加速を終え、巡航速度に入っている。ミミの示す緻密な航路計算がなければ、小惑星に衝突し、蒸発を遂げているはずである。


 我々は、まだ艦内最外郭に質量兵器を隠している。戦術シミュレーションとは違って曳航しながらの加速は不可能だったからだ。曳航したままだと艦が十分な加速を短時間で得られないのだ。そして、もう一つ戦術シミュレーションと違う点は、質量兵器として使用するのが、惑星の残骸ではなく、氷の塊である。氷塊は、星系に侵入する直前、外周惑星の周囲を公転していた氷の残骸を切り取ったものだ。ベルタが興奮したほどその質量は大きい。


 たとえ亜光速で航行していても、この小惑星帯を突っ切るのは、数時間を要する。惑星出身者には、辛い時間だろう。しかし、艦橋にいる二人の女性は、事も無げにすごしていた。胆力の問題だろうか、訓練を経てもここまで耐えられるようになるのは珍しい。僕は、この二人が宇宙の戦場に自らの身を投じる覚悟とその適性を目の当たりにし、正直に驚いていた。


『マスター、あと1時間程で、敵に遭遇する予定宙域です』

『ミミ、この会話は外部には漏れないの?』

『うん、絶縁物質の膜を張ることでそれを防ぐことができるの。どれだけ伝導性が高くても所詮、電気が源だから。この艦橋内に絶縁物質の膜を張ったから外部から電磁パルスが観測されることはないよ』

『そうか、じゃあ安心だ』


 変化が現れたのは、30分後だった。ミミが持つ高性能観測装置の一つである、赤外線観測、電波観測ともにこの先に数百隻の艦隊が行く手を阻んでいることを示している。


 僕は、マリアを見る。マリアは僕にうなずき返した。それが、この戦いの開始の合図だった。


ミミが報告モードで言葉を紡ぐ。

 

『…質量兵器、艦外に放出―商船団においても完了を確認―質量兵器、問題なく曳航中―当艦の質量兵器の照準設定―商船団の質量兵器、照準を当艦前方、敵艦隊上部に設定―照準誤差を修正…』


そして一呼吸おいて、最終確認を告げた。

『当艦の質量兵器、射出します。マスター、許可を』


「艦長、やっぱり号令を言っても問題ないようです。お願いします。」

「ああ。わかった……第一射、放て!」


 ベルタが組み立てた、簡易カタパルトから、氷の塊が宇宙空間に吸い込まれていく。その先には、数百の敵がいる。我が艦から放たれた氷塊は、敵艦隊上方に逸れていく。氷塊は、敵艦隊を掠めて飛んでいく。そして、敵艦隊の上方にあった大きな惑星の残骸に衝突した。


 大爆発が起きる。目視できるほどのまばゆい炎が上がる。

 

 仮想ディスプレイには、氷塊から小さな金属片が敵艦隊を覆うように広がる様子が見える。ミミに用意して貰った絶縁体入りのチャフだ。


「第二射、いけます!」

僕が報告する。この機会を逃してはならない。


「全弾、放て!」

マリアは、間髪いれずに命じた。


 商船団が曳航した4つの巨大な氷塊は、敵艦隊上段に向かう。商船団は、氷塊を放出したあと、その軌道を追いかけるように走る。敵艦隊は、予想どおり動かない。おそらくチャフの効果だろう。氷塊が敵艦隊にぶつかる。巨大な氷塊が4つも飛んできたのだ。凄まじい爆発が起きる。敵艦隊の上半分にいた150隻余りの戦闘艦がその巨体に根こそぎ巻き込まれた。


 爆煙が晴れるや、そこに我が小艦隊が飛びこむ。敵艦隊と交差する直前我が艦は、商船団に追い抜かれた。商船団は、残存する爆風に船を乗せたのだ。熟練の読みがなければ、爆風に吹き飛ばされているはずである。ニッカ船長の采配だろう。我が艦は、商船団の殿になる。絶妙のタイミングだった。


『ミミ、敵の旗艦はわかる?』

『うん。生体反応があるのはあの左下斜め前の大きな戦艦だよ。』

『じゃあ、あれをよく観察しておいてくれる?』

『はい!マスター』


 敵の旗艦と思われるその戦艦は、重量級戦艦の中でも特大級である。主砲は、戦略級兵器だろう。主砲が動く。前方、商船団が狙われている。


「艦長!俯角27度左三列目の艦が敵の親玉です!商船団が戦略級兵器で狙われます」

「ベルタ!撃てるか?!」

マリアが叫ぶ。反応が早い。

「当然です」

「ありったけの弾をあのバカでかい戦艦に向けて…撃て!」


 光学兵器が瞬時に着弾し、さらにミサイル群が弧を描いて、敵の旗艦に命中する。爆煙が舞い上がった。亜光速で航行中、ミミのようなPAIの制御がないのにも関わらず全弾を命中させた。これはもはや職人芸レベルだろうと僕は思った。ベルタの腕は超一流だったのだ。


 攻撃の反動によって艦の速度は落ちる。半減といっても差支えないだろう。急ぎ再加速を図る。しかし、そのとき我が艦の前方に100余りの戦闘艦、そして気がつくと後方にも同数の敵艦が回り込んでいた。チャフの効果が切れたのだ。水も漏らさぬ布陣。我が艦は一瞬の猶予も与えられずいとも簡単に包囲されてしまった。下には、敵の旗艦もいる。あれだけの光学兵器やミサイルを撃ちこまれながら装甲に傷一つないようだった。


「我々の全力をここまで見事に破られると、かえって爽快ね。まあ、任務は果たしたし、あとは、カールがうまくやってくれるでしょう。私たちは、未知との遭遇に備えましょう」

マリアは、僕とベルタを見て明るく笑った。


拙いお話を読んでいただいてありがとうございました。

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