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宇宙孤児の秘密  作者: 冴木雅行
第1章 宇宙孤児の憂鬱
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1.どうしてここにいるのだろうと僕は最も静かな戦場で思った。

 宇宙空間での戦闘は、静寂に包まれていると何かで読んだ記憶がある。確かに、味方の艦隊が巨大な出力の光学兵器を連射していても、敵の攻撃で破壊され、撃沈されていても、艦橋は無音だった。


 そう、僕は戦場にいる。宇宙軍の軽戦闘艦の臨時オペレーターとして。


 本来、オペレーターの役割は、情報処理だ。艦内外の情報を把握して報告する。いくらAIによる情報処理が主流になっているとは言え、人の目での確認、判断を不要としないのが軍隊である。とはいっても、僕のやることは限られていた。自分で「育てた」パーソナルAI(PAI)がほとんどの処理をしているからだ。僕は、必要な情報を解釈し、伝えるだけだ。


 僕はパートナーであるPAIを「ミミ」と呼んでいる。名前は愛着を誘う。そもそもPAIのカスタマイズ自体は、程度の差こそあれ、誰でもやっている。ホログラミング・フィギュアを好みの異性(まれに同性の人もいるが)にしたりするのは、一般人でもやっていることだ。着せ替え人形のようにしたり、変な語尾を付けさせれば、見事「ヘンタイ」という侮蔑の称号を与えられる(なぜ、ヘンタイと呼称されるのかはよく知らないが、響きは侮蔑に向いている)。でも、僕のように、プログラミングから手を入れ、「育てる」のは、気が触れたマニアとしか言いようがない。言い訳はしない。反省もしない。


 僕は、惑星連盟軍宇宙大学校工廠科に所属しているが、ここの学生にもヘンタイは多くてもマニアは少ないらしい。というのも僕は出会ったことがない。一度、僕が、PAIのプログラミング構造について、PAIに詳しそうな同期に話をふったとき、全く話が噛み合わなかった。


 僕が軍の大学に入ったのは、宇宙孤児という不運な身の上だっただけではなく、AI研究のためだった。5年間従軍すれば、違約金も発生しない。軍の研究職にだって就けるかもしれない。そんな淡い期待を持って入学した。でも、入学してからそうそう経たないうちに、僕のそんな淡い期待は、甘い夢だったと思い知らされた。軍隊というのは、金に糸目を付けないものだ。しかし、それは利用可能性の高いものという限定つきなのだ。


―AIは、軍において実用化されて久しく、デバックの必要すらないほどシステム的に安定している。AIの構造を抜本的に見直すことは、コストパフォーマンスが悪すぎる―


 これを僕は、ゼミでも、配属志望聴取時でも、個人研究授業でも、さらには立ち話でも、少将待遇の学科長から軍のカウンセラーまで色んな人から何度も言われた。「固定観念を打ち破らないところに科学の発展はない」が口癖の老教授までもが同じことを言ったのだ。


 こうして僕は、自分の研究計画が軍では受け入れられないことを悟り、しばらくの間、AI研究を個人的な趣味に止めておくことにした。さっさと従軍義務を終えて、貯まった給料でどこかの大学の工科研究科に行こうと決心し、学業を淡々とこなし、寮ではミミを「育てる」日々を過ごしていた。


…あの人に目をつけられるまでは。

拙いお話を読んでいただきありがとうございました。

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