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第7話


殿下が王立騎士団第六師団長だと知ってから、早くもひと月が経とうとしていた。


殿下の背中の傷は結構ひどかったので、さすがにこのひと月は、私がなんやかんやとお世話をしている。

やっともらえたメイドらしい仕事に、心が弾む。




「殿下、朝食をお持ちしました。食べ終わったら薬を飲むのを忘れないで下さいね?」

「はい……」


「包帯をかえますから、後ろを向いて下さい」

「じ、自分で……」

「いけません。また傷口が開いたらどうするんですか、ほら、後ろを向いて!」


「殿下、午後からお医者さんの診察があるそうです」

「もう大分治ってきましたし、そろそろいいのでは……」

「駄目です。そう言って昨夜は薬を飲み忘れて痛がってたじゃないですか」

「……」



私がくるくると仕事をしているのを見ながら、殿下が溜め息をつく。

でも、正直きちんと怪我を治して今後に響かせない方が、治しきらないで悪い影響を与えられるより重要だと思うので、心を鬼にして殿下のお世話をする。




「こんにちは、メイドのお嬢さん。サフィーの調子はどう?」

「きゃあっ!が、ガーファンクル様!どこから湧いて出たんですか!」

「湧いて出たって……ひどいなぁ。この塔の秘密の通路からだよ?」

「ひ、秘密の通路、ですか?」



聞いたことがない。この塔、そんなものがあるの?

説明を求めて殿下の方を見ると、ああ、と言って説明してくれる。




「この塔のできた経緯を知っていますか?」

「え……三代目の国王陛下が天文学に造詣ぞうけいの深い方で、当時の天文学者が集中して研究ができるように、と建てた、というものなら……」

「表向きはそうですね。」

「表向き?」

「はい。実際は寵姫を囲うための塔でした。」

「かっ……」




囲う、って!

ていうか、なんて不純なっ……



「当時は後宮もあったと思いますが、身分が低くて迎えられなかったのでしょう。ただ、一天文学者の塔に、王が毎晩、一晩中入り浸っているのはさすがに目立ちすぎると考えたのでしょうね。塔の裏にもうひとつ、隠し階段と出入り口を作ったんです。」

「メイドのお嬢さん、ここに初めて来た時、思わなかった?あっちこっちに騎士がいるなあって。」

「あ、少し、思いました……」

通路のいたるところに騎士がいて、なんとなく安心した、とは言えない。


「あれね、隠し階段に場所を取られてるせいで、塔の外見の広さと実際の広さが違うのをごまかすために配置してるからなんだよ。ちょっと勘の鋭い人がおかしいなーって思っても、あちこちに人がいるから狭く感じるんだ、って思ってくれるからね」

「そうだったんですか……」




知らなかった……

殿下がどうやってこの塔を抜け出しているのか気になってはいたけど、そんな仕組みがあったんだ。



「ところで、今回は何の用でわざわざここまで来たんですか。筋力なら、落ちないように最低限の訓練はしてますから、大丈夫ですよ。」

「んー、ちょっと色々な。そしてお前何故俺が筋力の話をしにきたと思ったのさ。違うから。普通に違うから。」

「……じゃあ何の話ですか?また部下が俺の見舞いに来たいと騒いでいる話ですか?」

「いや、それも違うからな?いや、それも問題だけどさ。つーかお前の中で俺は騎士団関連の話しかしない奴になってんの?」

「そうですね」

「……肯定しちゃったよ。こいつ肯定しちゃったよ。ねぇ誰かこいつどうにかしてー……」




ぐったりとしているガーファンクル様。でも、それを私がフォローするわれはない。



「で、最終的に何のご用なんですか?まさか与太話よたばなしをするために来た訳ではないんでしょう?」




素っ気なく言うと、恨めしげに見上げられる。……私をそんな目で見ても、何も良いことはないですが。見ないでください何かが減ります、とは言わないでおこう。




「……真面目な話、まずいことになった。」

「何があったんですか?」

「国王陛下と第二王女さまが第六師団長に直々に礼をしたいそうだ。」

「……冗談でしょう」



殿下の顔から血の気が引いている。

……まさか、陛下に秘密で騎士団員やってたの……?



「残念ながら本当だ。今までにも似たような申し出があったんだが、全て辞退しておいた。しかし、今回は訳が違う。救ったのが王女さまだからな。」



ああ……今まで助けた一般市民とは違うものね。さすがに辞退は難しいでしょう。



「だからといって……っ!無理ですよさすがに!いくらなんでも、声やらなにやらでバレます!」

「分かってる!だが、もう限界だ。お前の素性も疑われ始めてる。平民の出だとごまかしてきたが、王の情報網に全く引っかからないから。」




焦ったようなガーファンクル様の怒鳴り声に身がすくむ。

確かに、一貴族がでっち上げた人間の素性を、偽物だと看破するのは、王にとっては容易いはず。

この国で一番権力があり、人望があるからこその王なのだから。




「……王は、一週間後の第二王女さまが隣国に帰還なさる前日の宴で、素顔の第六師団長との面会をお望みだ。」




素顔で、面会!?

それは……さすがにごまかせないわね……

一体、どうなってしまうのかしら……







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