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第16話

遅れに遅れてすいません……


会場内がざわつき始めた



(あれが第六師団長……!?)

(嘘でしょう、なんであんな綺麗な顔を隠して……)

(悪魔王子の名を名乗るとは……)

(しかし彼の容姿は……)

(偽物じゃないのか?)

(しかしあの紫は王族の……)



会場に居る者たち全てが、正体を明かした彼に、なんとも言えない視線を送っている。


一方の彼は微動だにせず、陛下に言葉をかけられるのを待っているようだ。

黒紫の髪に光が当たって、天使の輪が出来ているのを、私はなんとも言えない心地で見ていた。




「――静粛に!」




唐突に、低く、よく通る声が広間に響く。

陛下だ。

ざわめいていた人々はすぐに静まり、陛下へと再び向き直った。




「サファロニア・リーベルド・ラトレイユ」




殿下の肩が、僅かに揺れた。




「……貴殿は、我が娘を、身をもって守ったと聞く。心より、感謝する」


「……勿体無い、お言葉でございます」




感情を押し殺した声が、響く。



「貴殿は、よく、怪我をするようだな」


「はい」


「弱き者を疾く助ける為に、最低限の防具のみしか着けないと。」


「……私は、俊敏さが取り柄ですので」


「そなたに助けられた者は多く、民からの支持も厚い、と聞いておる」


「それは、私に限った事ではございません。全ての団員の、勇気ある行動の結果であるかと。」



低い声で、淡々と応答する殿下。



「……しかし、そなたを支持する声が高いのも事実だ。貴殿は、民に愛されている」


「……」


「貴殿が怪我をしたと聞く度に、多くの民が心配の声を寄せる。重い防具が俊敏な動きの妨げになるのであれば、そなたには、軽く、丈夫な防具を贈ろう。民の心配の種を、減らせるように。」


「ありがたく、存じます。」




再び深く頭を下げた彼は、立ち上がり、第一師団長の元へ戻ろうとした。

しかし、陛下がそれを妨げる




「待ちなさい、サファロニア・リーベルト・ラトレイユ」

「……何か、ございましたか、陛下」




ゆっくりと陛下に向き直る殿下は、ひどく緊張して見えた。

当たり前だろう。作法どおりに退出しようとした時に声をかけられるなど、普通ならありえない。




「なぜ、退出しようとする」

「……作法の通りに、」

「それは臣下の作法だ」




殿下が戸惑いの表情を浮かべる。




「我が息子が、何故臣下の作法に従うのか。壇上に上がれ。席も用意してあるだろう。」




……つまり陛下は、殿下に、王族の作法に従え、と言っているのか。

殿下が内心、ものすごく焦っているのが分かった。

当たり前だ。殿下は臣下のものでも王族のものでも作法を完璧にこなせるが、こういった宴の席に出た経験など無に等しい。

殿下が大層迷っているのが分かったのか。殿下の腹違いの兄にあたる、三つ子の王子たちがいきなり立ち上がった。




「何をしている、我が弟よ」

「早く来ないと怒るよ?」

「それとも迎えに来て欲しいのかい?」




満面の笑みで声を掛けられて、殿下はさらに困った様子だった。


が、隣の第一師団長に背中を軽く叩かれ、耳元で何かを言われた事で、諦めた様子で、赤い絨毯の敷かれた階段を上がり始めた。


階段を上がりきってすぐ、陛下と妃殿下に一礼する殿下に、陛下は上機嫌な様子で声を掛ける。




「何度宴に呼んでも来ないものだから、どうしようかと思ったぞ」

「申し訳ありません、陛下」

「……父とは呼んでくれぬのか?」

「すいません父上」




拗ねたように言った陛下の言葉に、殿下がものすごく慌てている。顔には出てないけど、絶対慌ててる。

なんとなく微笑ましく思いながらも、私はふと気付いた。


さっきから妃殿下は一言も喋っていない。


陛下もそれに気付いたようで、妃殿下をちらちら見ている。しかし、妃殿下は僅かに強張った笑みを浮かべるのみだ。

会場の人々も気付いたのか、またもやざわざわとし始めた。


陛下も困っているようだ。




「……妃殿下」



ふいに、殿下が妃殿下に声を掛けた。



「……まだ、私のことを、厭うておいでですか」




会場が、凍りついた気がした。







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