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第13話

控え室の中は、すぐに人で溢れかえるほどになった。

メイドとして王城に仕えていれば、だいたいの貴族の顔や名前、ついでに本性なんかも分かるので、ヤバそうな人を極力避けて、評判のよいご婦人や令嬢方に話し掛けて、適度に社交会の情報を集めていく。




「そういえば、最近ドーリッシュ子爵令嬢は第二師団長さまにフラれて、今回の宴にもご参加なさらないのですって」

「まあ、私の聞いたのはバード侯爵令嬢が第六師団長さまの仮面を無理矢理外そうとして、第一師団長さまに訓練場への出入りを禁じられたというものでしたわ」

「あら、私はミーア伯爵婦人が第四師団長さまになにか無礼を働いたと……」



うん、色々と明け透けに伝わってるのね……

侯爵令嬢の話は私も殿下から聞いている。なんというか、親にベタ甘に甘やかされた令嬢の典型だって、メイドの間でも噂になってたし。

私もティナ様と一緒ににこにこ微笑みながら彼女たちの話に当たり障りのない相槌を打ち、適当な話題を提供しつつ談笑する。


宴が始まるまで、あと五分程度かしら?

とりあえずはなんとか切り抜けられそうだと安堵した、その時。




「……ちょっと、貴方。見ない顔ね。新入りのくせにこのわたくしに挨拶をしないなんて、どういう了見なんですの?」




……うわ。

来ちゃった。さっきまで話に出ていた、バード侯爵令嬢が。




「聞いてますの!?貴方、このわたくしを無視しようなんて、とんだ身の程知らずなんですのね!身分の程が知れますわ、この端女はしため!誰がこのような女を連れ込んだのかしら、汚らわしい!」




……あらあらあら……

この子、侯爵令嬢の割に、貴族の顔の把握とか、まるきり出来てない……

確か18歳だったはずだし、私が社交会デビューした時の舞踏会にも出ていたはずなんだけど。

まあ仕方ないか、国民なら誰でも知っているほどに、吝嗇家りんしょくかかつ艶福家えんぷくかで、その上無能と有名な、バード侯爵家の血を引いているのだものね……

うう、やっぱりこういうワガママっ子の相手はイラつく……





「お久しぶりですわね、エリーゼ様。王女様の部屋で会って以来ですので、半年ぶりでしょうか。リリアナ・オルデンベルクです。」




にっこりと微笑みながら皮肉混じりの言葉を告げる。

言外に、私が王女様に仕えてるの見てるだろ、忘れてんのかよと言ってみた。

さあ、分かってるかな?




「はぁ?貴方みたいな下賤な女が恐れ多くもわたくしの親友であられる王女様のお部屋に居るわけがございませんわ!どうやら頭がおかしいようね!」




……だめだわ、これ。

私の身分も分かってなければ、王女様のことも誤解してるし。

彼女、王女様に蛇蝎だかつのごとく嫌われてたんだけど、気付いてないのね……

王女様、いっつもバード侯爵令嬢が来た後は私達--部屋付きのメイドに愚痴ってたんだけど。

うん、疲れる。本当に、もう……


バード侯爵令嬢の取り巻きらしい少女たちは、どうやら私の身分が分かったようで、焦った様子で彼女を止めようとしているが、彼女はまったく気付いていない。

あー、なんだか、取り巻きの子がかわいそうになってきた……

とりあえず適当にこの場を繕おうと口を開こうとした時。




「失礼致します。じきに宴が始まりますので、お名前を呼ばれた方から、案内に従って移動して下さいませ」




……もう五分経っていたらしい。

バード侯爵令嬢は私を見下すような目で睨んでから、さっさと部屋を出て行った。とりあえず助かった……

そう思って扉のあたりに控えて名前を呼ぶ係のメイドを見ると。




(……!?アリアがなんでここにいるのー!!?)




茶色の巻き毛をふわふわ揺らして、にっこにこ愛想笑いを振りまきながら令嬢方の名前を呼んでいるアリアと目が合った。

そう言えば、アリアは確か数日前に会った時、『大役を任されちゃった!』とはしゃいでいたような。

うわ、どうしよう。

これは後でみっちり事情を説明させられるわ……

心の中でがっくり肩を落とす。あー、こんなことを見落としてたなんて!一生の不覚!

ティナ様が心配そうに私を見上げてきたので、とりあえずにっこり微笑みかけておく。




“大丈夫ですか?バード侯爵令嬢……エリーゼ様はしつこく嫌がらせをする事で有名ですし、気を付けて下さいね。アルフレート様がいて下さるから、大丈夫だと思いますけど……”

「ティナ様、お気遣いありがとうございます。気を付けますね」

「リリアナさま、大丈夫ですの?あの人、自分より容姿に優れた方をひどく苛めるんです。私の友達も、ひどいことをされて……」

「できるだけ近付かないように気を付けた方がよろしいですわ」

「そうなんですか……心に留めておきますわ。ありがとうございます」




微笑みながら言うと、何故か皆頬を赤らめて俯いてしまった。……どうしたのかしら。おろおろしていると、扉の方から私の名前を呼ぶ声がした。もう順番がまわってきたのかしら。

とりあえずみんなに簡単に挨拶をして、扉の方へと向かう。




「リリアナ・オルデンベルク様でごさいますね?案内の者に従って、会場まで向かって下さいませ。…………後でみっちり色々説明してもらうわよ」

「……分かりました。」




ぼそりと付け加えられた一言に内心冷や汗をかきながら、私は会場へと向かった。






活動報告に小話を書きました~

興味のある方はどうぞ!「香水の話」。殿下視点の話になります。


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