第12話
馬車に乗ったまま王城の裏門をくぐって一度城外に出る。
塔の方からだと、馬車を停めるための場所に入れないから、だそうだ。
正門に回るまでの間、私と三人は多少の情報交換をして、私とアルフレート様の関係の適当な設定を作り上げることになった。
「とりあえず、許婚未満の関係、って事でいいですかー?僕とティナはまだ婚約を発表してないですけど、その辺はちゃんとしておかないとー」
「ふん、両親が知り合いだとかか?」
「あ、その設定いいですね。アルフレート様、それでいいですか?」
“幼なじみと言うと色々突っ込まれそうなので、それなりに仲はいいけれど、そう頻繁には交流がなかった、という風にした方がいいのではないでしょうか?”
「それもそうですね……事実、私ほとんど皆さんのこと知りませんし。」
「ティナは賢いねー」
にこにこしながらティナ様の頭を撫でるアルフレート様。
……うん、眼福。
ティナ様すっごく可愛い。
なんか、こういうのって良いわねぇ……
「おい、どうでもいいがそろそろ着くぞ」
「あー、そうだ。城の中に入ったらちょっと性格が違って見えるかもしれませんけどー、ちゃんと僕ですからー、気にしないでくださいねー?」
「は、はぁ……」
性格が違って見えるって……
猫かぶりでもするつもりかしら?
疑問に思いながらも、隣に座っているティナ様を見ると、ちょっとつまらなさそうな表情をしている。
やっぱり宴に出たくなかったのかしら……
「ティナ様?」
声をかけてみると、ぱっと顔をあげる。
「えっと……大丈夫ですか?」
“すいません、城の中に入ったら、アルフレート様がいっつも構ってくれなくなっちゃうから、つまらなくて……”
苦笑いする彼女。
こんなに可愛い子を構わないって、どんな猫を被ってるのよ。むしろさっきまでアルフレート様はティナ様をべったり構っていたから、彼女に冷たくしている様子が想像できない。
というか、城に一緒に来ることはあるのに、まだ婚約発表してないって……なんで?
私の疑問がなんとなく分かったのか、アルフレート様がいつもの笑顔で理由を教えてくれる。
「結婚ギリギリで発表するつもりなんですー。だって、ティナが僕の親衛隊とやらに制裁とやらをされたら、いくら相手が女の子でも、手加減出来る自信がありませんー」
……さらっとヤバい事を言うなぁ、この人……
ティナ様が嫌な目に遭ったら、全力で殺るつもりなんだろうなー。わー、敵に回したくないー。
私がそんな事を心の中で思っているうちに、城に着いたようだ。
御者のおじさんに馬車を降りるように促される
時間が早いためか、まだ人影もまばらだったので、とりあえず全員で宴の会場に向かう。
忙しく立ち働くメイドさん達に、私は心の中で謝る。ただでさえ忙しいのに、私はこうしてドレスを着て、宴に参加しているのだ。なんだか罪悪感。
いや、これもある意味仕事だけど。
会場へ入る順番は身分の高さ順と決まっているので、とりあえず控え室で待機する事になる。
男性と女性で別れているので、私とティナ様は一旦二人と別れるのだ。
「会場に入ったら声をかけますからー。あ、ティナのことよろしくお願いしますねー」
「わかりました。」
「ふん、じゃあ後でな」
“二人とも、会場で会いましょうね”
私たちは女性用控え室のドアを開けて、中へ入っていく。
今のところ誰もいないようで、がらんとした広い部屋の中は静かだ。
でも、もうしばらくすれば、人がたくさんやってくるだろう。
そうすれば−−ここは、小さな戦場と化す。
きらきらしい衣装に身を包んだ女性達の、駆け引きの場所。
私は深く息を吸い込む。
外からざわざわとした話し声が聞こえてきた。
さあ、気合いを入れていかねば。
身動きするたびに漂う殿下の香りが、心強い。
彼のために、精一杯噂の種にされてやろう。
覚悟を決めて、私は扉を見つめた。
さあ、戦いの時間だ
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これってなんか記念企画みたいなのやった方がいいんでしょうか……?
ちょっと分からないです。
えっと、やった方がいいって人いますか?
むしろ本編を頑張って進めた方がいいんでしょうか?
意見等ありましたら、感想版にお願いします。