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第10話


宴の日の、朝がやってきた。

殿下の塔の中は、かなりの大騒ぎだ。




「この衣装はどこに置くんですか!?」

「誰か靴がどこにあるか知らない?」

「きゃーっ!誰よ今あたしの足触ったの!!」

「そんなことより、くしがないんだけど!!」




事情を知っている下働きの女性たちは、いつもより早い時間から仕事を始めてくれている。もちろん私も、殿下の身支度に忙しい。




「殿下、髪を揃えますから動かないでください!」

「分かっていますよ。」




長く伸びて背中にかかっている髪は、ところどころ不揃いなので、できるだけきれいに揃えておく。

見られる状態になったところで、ブラシを使って切った髪を払い、櫛で、絡まったりしないように丁寧に梳いて整える。

ついでにに男性用の香水を首に軽くふりかけてやると、殿下がいきなり香水瓶を持ったままの私の手を掴んだ。




「……?殿下、どうしたんですか?」

「リリアナ、少し首を傾けて下さい」

「?」




言われた通りに首を傾けると、殿下が私の手から香水瓶を奪って、首の後ろあたりに香水をふりかけた。

冷たい水がふりかけられたのに驚いて、私が首をすくめると、殿下がにっこり笑って言う。




「おそろい、ですね。」




……これがしたかったのか。

害のない悪戯と言うことにしておこう。どうせこの匂いはそこまで男性的なものでもないし。




「ほら殿下、ローブを着せますから、後ろを向いて!」

「はいはい」




私の方に背を向けた殿下の頭にフードをかぶせ、彼の前にまわってローブの裾丈が長すぎないのを確認してから、首から胸にかけてあるボタンを留め、飾りのベルトを締めて、一度彼から離れてから、おかしいところがないか確かめる。




「……あとは仮面を着ければ完成ですね。ローブの脱ぎ方は分かります?」

「ええ。ベルトを外して、ボタンを取ってしまえばいいんでしょう?」

「ボタンは割と簡単に外せますから。指先でボタン穴に軽くボタンを押し込むようにして外して下さいね」

「はいはい」

「じゃあ仮面を着けますから、ちょっと屈んで下さい」

「ああ、少し待って下さい」

「はい?」




殿下を振り向くと、頬に、柔らかい感触が。


……ああ、キスしたかったのね。

なんとなく呆れながらも、仮面を両手で持つ。




「ほら、屈んで下さい」

「……リリアナからは、キスしてくれないんですか?」




……して欲しかったのか。

私は小さなため息をつくと、覚悟を決めて彼の唇に軽くキスをした。

すぐに体を離して、驚いて固まっている彼が何か言い出す前に、仮面をかぶせて金具を留める。




「殿下、ご健闘を」

「……リリアナ、愛しています。浮気しないで下さいね。あなたのもとに、戻りますから」

「分かってます」




仮面の奥で彼がちょっと笑うのが分かった。

……あー、恥ずかしい。

手早く周りに散らばった用具を片付けて、殿下を先導して部屋を出る。

扉の外では、正装に身を固めたガーファンクル様が待っていた。




「サフィー、大丈夫だな?」

「ええ。」

「オルデンベルク伯爵令嬢、お疲れさま。下の部屋に俺が手配した侍女と、衣装一式が揃っている。宴に間に合うように来てくれ。」

「承りました。」




ガーファンクル様に連れられていく殿下を見送ってから、私も身支度のために階下の部屋へ向かう。

室内には三人の侍女がいて、私は部屋の扉を開けた次の瞬間、部屋に引きずり込まれた。




「さあさあ、そんな野暮ったい使用人メイクは早く落として下さいな!」

「髪を巻かせてもらいますわ!ああ、なんてきれいな御髪でしょう……」

「まあ、コルセットなしでこんなに細いなんて!うらやましい……胸もしっかりありますし、着飾らせ甲斐がありますわ〜」




……久々過ぎてものすごく恥ずかしい……

十二歳くらいから着飾ったりしなくなっちゃったし、人に着替えやら何やらを手伝ってもらうのも久々。

何もしないうちに飾られていくのが、なんとも不思議な気がする。




「……あら、香水はもうつけていらっしゃるのですか?」




化粧を担当してくれた侍女に聞かれて、慌ててはいと答える。



「そうですか……よくお似合いの香りです。私もまだまだだわ……!」




何故か悔しそうな侍女さん。私、何かマズい事したのかしら……




考えているうちにも、どんどん身支度が進んでいく。

久しぶりに着た絹のドレス。うん、普通に重いわこれ……

瞳の色に合わせて青い大粒の宝石をあしらった、限りなくシルバーに近いゴールドの地金の首飾りに、細い金や銀の棒を幾本も絡み合わせた髪飾り。耳には青紫の宝石のイヤリング。

ドレスは涼しげな青で、ところどころに薄紫の花やリボンの飾りが付いている。

完成した私の姿を見て侍女さん達が満足に頷く。




「完璧ですわ」

「ああ、楽しかった……!こんなに飾り甲斐のある方は本当に久しぶりでしたわね!」

「オルデンベルク伯爵令嬢さま、またこのようなご用の際はお呼び付けくださいね!腕を振るわせていただきますわ!」

「あ、ありがとうございます!」




三人にお礼を言って、急いで部屋を出る。

ドレスの裾が汚れないように軽くたくしあげて、塔の外へと急いだ。



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