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第五章:荒鷲の縄張りに

俺はネルガルと再びカフェで落ち合っていた。


「ビショップが勝手に動いた、か」


俺は煙草を灰皿に押し付けて腕を組み、ネルガルを見た。


「申し訳ございません。これは明らかにこちらのミスです」


ネルガルは渋面を浮かべながらコーヒーをブラックで飲んだ。


その様子から本人も予想外の行動であり、苛立ちを隠せないと直ぐに分かった。


こいつがここまで感情を表に出すのだから、今度の事はよほど腹に来ていると感じる。


どうして俺がネルガルとカフェに居るかと言えば昨夜、ネルガルから至急の連絡が来たからだ。


会ってみると嫌な報告を受けた。


『セフィム一族が人間界に降りました』


まだ動かしていないのに、どうして?と俺は思ったが直ぐに答えは見つかった。


情報が漏れた。


あいつ等も個人なりに伝手はあるし、何より同族の事なら直ぐに解かるだろう。


そしてネルガルから報告を聞いてみると、何でも以前から荒鷲の存在を知っていたらしい。


「向こうは長年、同族“あった”ヴラド一族を自分達で始末しようと考えていたようです」


あった・・・もはや過去の物と考えている訳か。


まぁ、表の世界で騎士として繁栄している向こうから言わせれば、忘れたい過去でしかないだろうな。


「それで?」


俺は続きを促した。


「ヴラド一族を始末しようとしたが、皇子様お一人で始末してしまいました」


向こうは恐らく俺に手を出させず自分達で始末しようとしたんだろうな。


「俺は奴等の獲物を横取りした訳か」


「ですね。ですが、これによって過去と完全に決別したと安堵した事でしょう」


「だが、生き残りである荒鷲が生きている事を知った」


俺の言葉にネルガルは静かに頷いた。


「皆殺しにされたと思っていた過去の亡霊の生き残りが居たと聞いて向こうは、また悩まされると思ったのは言うまでもありません」


だから、事が表に出る前に自分達の手で始末しようと動いたらしい。


しかし、思う様に捕まらずに焦り始めた。


そこへまたしても俺を殺そうとしているとも知った。


これが表沙汰になれば、不味い事になるのは明白だが奴等から言わせれば俺を見ていれば必ず姿を現わすと踏んだ。


そして独自に調査してアジトを突き止めると刺客を送り出したらしい。


「・・・迷惑な話だ」


自分達の手でやろうとした心意気は買う。


だが、それに失敗するは誰にも言わないは、で最悪だ。


何より俺を餌にするという行為が許せない。


「はっ、残念ながら手がかりも無いです。それにしても鮮やかな殺し方でした」


ネルガルの話では昨夜の襲撃でセフィム一族が送り出した刺客4人が殺されたらしい。


全員が喉か心臓をナイフで一突き。


4人とも抵抗らしい抵抗は何一つ出来ていない様子だった。


「仮にも騎士として有名な一族がこうも抵抗一つ出来ずに死ぬとは、些か衰えましたかね?」


「それもあるな。だが、こいつ等は荒鷲が来た事に気付かなかったのさ」


「ですが、動けば必ず音はしますよ?」


ネルガルの言葉を俺は否定し、出来ると答えた。


「・・・・無音殺人術を使えば出来る」


「無音殺人術とは?」


ネルガルは初めて聞いた言葉に首を傾げた。


「書いて時の如く、音が出ない殺人術の事だ」


「そんな事が可能なのですか?」


「様々な格闘技と解剖学を応用した技術を要する極めて難しい術だが、これを手に入れれば音も無く相手を殺せる」


「つまり、暗闇で唯一とも言える相手の居場所を知る事が出来る“音”を消せる殺しの技術という事ですか・・・・・・・・・」


ネルガルは、これでは抵抗一つ出来ない訳だと一人納得した。


「あぁ。流石は暗殺者だ。やり方が見事だ」


敵ながら天晴れと素直に思う。


更に証拠物件も無い。


全て処理されていた。


ここに来た、という姿形も見せない。


お陰でアジトを見つけるのに手こずった。


そして送ろうとした矢先に思わぬ横やりが入り、荒鷲は巣を捨て新たな巣へと消えた。


せっかく見つけたのに台無しだ。


これではまた一から考えるしかない。


「・・・申し訳ございません」


「お前が謝る必要は無い。それで・・・セフィム族の長は何と?」


「はぁ、皇子様には誠に申し訳ないと謝っております」


謝っておきながらも未だに刺客を送ろうとしております、とネルガルは言った。


「・・・もう良い。ビショップは要らない。勝手に動く手駒は捨てさせてもらう」


これ以上おかしな真似はさせるな、とネルガルに言った。


「畏まりました。ですが、どうするのですか?」


ビショップを捨てた。


それでは次はどの駒を動かすのか?


「簡単だ。キングが直接動けば良いだけだ」


・・・そう。


もう飽きた。


これ以上、他の誰かに獲物を横取りされるような真似はされたくない。


なら、獲物である俺が自ら狩人の視界へと入り、逆に喉仏を食い千切れば良いだけの話だ。


「・・・危険な賭けですよ」


ネルガルの言葉に俺は頷いた。


自ら仕留められに行くようなものだが、一種の賭けだ。


「危険な橋は何度も渡っている。それに・・・ここで死ぬなら、俺はその程度の実力という事だ」


俺が動き、俺が死んでも迷惑は誰にも掛らない。


俺が死んでもジャック達なら上手く後始末は出来ると思っているし、魔界でもそうだろうと思った。


「・・・・・貴方様を力づくで止める事も可能なのですよ?」


ネルガルは、鋭い視線で俺を射抜いた。


こいつが本気で俺を案じていると解かる。


だが、これは俺のケジメだ。


誰にも獲物は渡さない。


あの女は俺の獲物だ。


「やれるのか?“部下”であるお前が、“主”である俺に対して?」


「・・・・・・・・・・・・・分かりました」


ネルガルは諦めたように視線を逸らした。


「ですが、万が一の事も考えて、要員は遠くに置いておきます」


これが恐らくこいつなりの妥協なのだろう。


「構わん。ただし、俺の獲物に手を出すなよ?」


「分かりました」


ネルガルは頷いた。


俺は立ち上がり、愛車に乗り込んでパリへと向かった。


さぁ、荒鷲よ。


獲物が自ら動いたぞ。


自ら鷲のテリトリーに入ったんだ。


どう出る?


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