幕間:追撃者
闇の中で私は目を閉じて夢想をしていた。
片手にコルト・ガバメントを握りながら私は目を閉じ、神経を尖らせている。
闇の中では何も見えない。
しかし、神経を尖らせていれば誰が何処に居るか分かる。
それと闇の中で剣を抜くのは余り良い事ではない。
刃物類は闇の中でも光る。
だから私の場合は敢えてナイフを黒く染めて光らないように施している。
目を閉じて神経という名の蜘蛛の巣を張り巡らせていると僅かに動いた。
「・・・・・・・・」
うっすらと目を開ける。
神経に引っ掛かったのは全員で4人。
覚えのある気配だ。
私はガバメントの撃鉄を静に起こして、一発だけ撃った。
オレンジ色の火花が出て、4人の人影が見えた。
ガバメントをホルスターに仕舞い、腰に手を回しナイフを取り出した。
そして息を殺して相手が散開するのを待った。
相手は直ぐに散開した。
最初の一発で姿を見られたから、固まっているのは不味いと判断したのだろう。
中々の判断力を擁しているが、動きの方は何処か慣れていない。
私は左に動いた人影に音も無く近付いて後ろに回った。
「・・・・・・・・」
左手で口を抑えてナイフで脇腹から心臓に突き刺した。
相手は私の右手を両手で掴んだが相手は抵抗らしい抵抗も出来ずに息絶えた。
殺した奴を地面に捨てて、故意に音を立てた。
そして直ぐに別の場所へと移動する。
直ぐに他の者に向かった。
他の者たちも同じ手で片付け始めた。
残り3人も殆ど抵抗らしい抵抗もできずに息絶えた。
鍛えているが、こんな暗闇での戦いは慣れていないと直ぐに分かった。
明かりを点けて殺した相手を見て見ると覚えがあった。
「・・・・・セフィム一族」
我が一族から離脱した。
今は近衛兵から王立国境騎士団、貴族の個人騎士団など幅広い面で活躍している。
金髪に碧眼の容姿で、我が一族とは異なる容姿と異なる武器を愛用している。
彼等は槍を主体にしている。
だから、我が一族では「ツェペシュ」と蔑称を付けていた程だ。
しかしながら我が一族とは違い華やかな表舞台に立った。
言わば我が一族の光とも言える。
尤も、お互いに嫌悪感しかなく交流などは一切ないが。
そしてどうしてこの一族が私のアジトに来たのか?
「・・・尻拭いかしら」
一族が皆殺しにされたと言われているが、きっと私が皇子を殺そうとしたのを何かしらの伝手で知り、その事で私を抹殺しに来た。
と考えるのが妥当と言う物だ。
向こうから言わせれば、過去の亡霊がまた皇子を暗殺しようとしているなど我慢できない面があるだろうから。
だが、こいつらにやられるほど私は弱くない。
何より暗殺者として生きてきた私から言わせれば、正当戦術しか学んでいない者など話にならない。
「・・・面倒な事になったわね」
別に何人来ようと怖くないが、まともに相手をしている暇は無い。
直ぐにここを出る事にした。
武器をアタッシュケースや釣り竿のケースに入れて証拠物件は一切消した。
後は死体の事だが、放っておく事にした。
下手に動かすと面倒だし、人目に付く。
それは避けたい所だ。
死体を置いて私はアジトを出た。
アジトを出た後、少し離れた場所に停めてあるBMW・E38に乗り込んで出発した。
今度はもう少し分かり辛い場所に移動しようと思う。