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幕間:最高の喜び

私はパリ郊外にある今は使われていない廃墟の中で銃の手入れをしていた。


ここを取り敢えず根城にしている。


暖房も冷房も冷蔵庫も何も無い場所で、寝る時は段ボールを下に敷いて毛布を掛けて寝るだけだ。


別に苦と思った事はない。


こんな生活はもう嫌と言うほど幼い頃から味わって来たのだから。


そして私が持っている銃は拳銃が2丁、ライフルが1丁、ナイフが2本だ。


これ位あれば周りの奴等を支配する事が出来る。


尤も、何れはこれで自分も死ぬと言うことを念頭に置かなければならないが。


1丁の拳銃をガンブラシで掃除しながら、今度はどんな手を使うか考えた。


「狙撃はもう駄目ね」


同じ手は二度と通用しない。


これは私が戦場で培った経験だ。


二度も同じ手が通用するほど戦場は甘くない。


ここは戦場なのだ。


殺すか殺されるかの二つの選択しかない。


スライドを掃除しながら、私は至近距離で仕留める案を思い浮かべた。


遠距離で気付くのだから、至近距離でならもっと早く気付くだろう。


だが、逆に至近距離なら接近戦に持ち込む事も可能だ。


幸いナイフ戦闘は得意だし、フルオートが可能な拳銃もある。


しかし、向こうもフルオートは可能だ。


そこを上手く考慮して場所なども考えなければならない。


何より仕留めて上手く逃げる逃走経路が必要だ。


予備も入れて最低でも3つは欲しい所だ。


仕留めたのは良いが、包囲されて蜂の巣にされるのは御免被りたい。


煙草に火を点けた所で携帯が鳴った。


「ここには掛けるな、と言った筈よ?」


私は煙を吐きながら電話の相手に冷たい声を放った。


このアジトを知られたくない。


だから依頼人とは直接、会いそこで全額を払ってもらい後は会わないし連絡も取らない事を旨としている。


だが、今回は向こうがどうやったか知らないが、私の携帯を調べて掛けてきた。


『わ、悪い・・・だが、どういう事だ?一発で仕留めると言った筈だぞ?』


電話の相手は怯えたが、直ぐに強気な声で言い返して来た。


電話の相手は私を雇った相手だ。


人間界に降りてから生きる為に何度か殺しを請け負った。


あの男を殺すのは、金が欲しいからではなくただ腕を試したいからだ。


だが、どういう訳か仕事を請け負っている。


断っても良かったが、むざむざ別の奴に獲物を横取りされたくない。


「言い訳はしないわ。一発で仕留めると言っておきながら、出来なかったんだから」


私は電話の相手に一発で相手を仕留めると断言した。


だが、それに失敗した。


明らかに怒られても言い返せない。


もしも、私の一族が生きていれば私は死んでいただろう。


失敗は許さない一族だったからね。


「それで何の用?まさか、ただ文句を言う為に電話を掛けたなんては言わないでしょうね?」


もしも、言ったなら鉛玉をくれてやる所だ。


『は、伯爵がお前の事を知ったんだよ』


伯爵・・・・これが人間界で呼ばれる男の渾名だ。


何とも凝った名前だと思う。


銃器や車にしてもそうだが、あの男は凝った物が好きなのだろうか?


そんな事を考えながら私は煙草を蒸かし、どれくらいまで知られたのか気になった。


「何処まで知っているの?向こうは」


アジトの場所から年齢、性別、名前、家族構成など暗殺者にとって何一つ知られたくないものばかりだ。


その知られた事で命を落とした同業者を何人も見ている。


『そこまでは・・・・・・・・・・ただ、お前さんの事を知られた事は確かだ』


「そう。分かったわ。これからは連絡しないでよ」


そう言ってから電話を切った。


私は携帯を放り投げて分解をした拳銃を組み立て始めた。


組み立てた拳銃を片手に50メートほど離れた的に向かって空撃ちをした。


カチッ


と乾いた音を立てて、撃鉄が落ちた。


「今度は、貴方の額にちゃんと鉛玉をお見舞して上げるわ」


だって、貴方は私の獲物だもの。


でも、ただ追われる獲物ではない。


逆襲を仕掛けて来るほど凄い獲物。


大物と言えるわね。


そして私は貴方を追い掛けて仕留める狩人。


狩人にとって、大物を仕留めるのは最高の喜び。


喜んで下さい。


貴方は大物よ。


そして私は貴方を仕留められる。


それを想うだけで私は歓喜の気持ちに襲われた。


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